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読了のおっさん19 龍帥の翼 史記・留侯世家異伝(川原正敏/月刊少年マガジン)

今日も、おっさんが全巻読んで面白かった漫画をご紹介です。
個人の感想であり、感じ方はそれぞれなれどご参考に。
概要的なネタバレは含みます。

龍帥の翼 史記・留侯世家異伝
(川原正敏/月刊少年マガジン)
2016年~2022年 全25巻

① タイプやテーマなど
 歴史もの、項羽と劉邦、中国、軍師、戦記物、戦略・戦術、人心掌握、支配者、人ではない存在、龍

② 簡単な内容
 韓の張良(ちょうりょう)は秦によって祖国を滅ぼされた恨みから、秦の始皇帝暗殺に立ち上がる。
 暗殺は失敗に終わるも、その旅路で伝説の四凶の戦士「窮奇(きゅうき)」と、人や未来を見通すことのできる少女「黄石」を仲間に得る。暗殺未遂後は、始皇帝弑逆の罪から逃れるために潜伏しつつ、仲間と共に韓の復興へと準備を始める。やがて秦は始皇帝没後の跡目争いから内乱に勃発し、張良は黄石の導きによって劉邦に与することになる。
 張良は劉邦の元で「鬼才の軍師」として辣腕を振るいつつ、韓の再建、項羽率いる「楚」の軍勢との戦いを続け、漢王朝成立までの戦乱の時代を駆け抜けていく。

③ 読みどころ
 「非常に時代考証がしっかりしている」との他者の書評もある。所謂「項羽と劉邦モノ」であり、キャラクターの書き分け(容姿・性格共)も時代考証同様、繊細に思う。項羽と劉邦モノに興味が持てればそれだけで気軽に読み始めて後悔はないと思う。
 創作部分(四凶の戦士「窮奇」や「黄石」の存在など)についても出過ぎず、あくまでしっかりした時代考証の不足部分を補うような形で登場しており、作者からは本当に正直な歴史ものを書きたかったことが伝わってくる。
 有名な古事成語(四字熟語や諺)の由来について、有名なものを知っている人は多いと思うが、本作(というか項羽と劉邦モノ)にもいくつも出てくる。当然前後のエピソードが本作に描かれているのだが、本編の流れと合わせて興味を持って読むことができると思う。



④ 雑多な感想
 修羅の刻以降、おっさんのオススメ作家と語っている川原正敏先生の、同じく歴史モノで、恥ずかしながら項羽と劉邦モノにふれたのも本作がほぼ初めて(若かりし日に説話集などで雑にエピソードを拾って読んだことはあるが)。でも淀みなく読み切れた。面白かったし教養が増えた。

 やっぱりキャラクターの書き方、世界の書き方が本当に好みである。項羽の恐ろしさと劉邦のオバカな感じも読んでいて楽しかったが、項羽の伯父の項伯や、張良の主君で韓の王として再起を果たす韓成、項羽に軍師として長年仕えたものの張良の謀略によって放逐される范増、項羽を見限り劉邦側に着いた軍師の陳平
 などなど。。。魅力的に描かれているように思う。歴史や偉人が題材となっている漫画作品は数多いが、本作はやりすぎず史実に忠実、創作だけどかつてその人がそこに居た雰囲気を感じて感情移入できる。だから最後までのめり込めた。

 巻末の著者のコメント文が結構長い。歴史や作品をどう解釈して考察たかも詳しく記載されていて、漫画部分と合わせて味わい深いので飛ばさず読むとよい。
 この手のコメント分は修羅の刻の巻末にもあったが、本編の途中でダラダラ説明を語るよりも良い、一方で全く著者の解釈が伝わってこないのも寂しい、ということでやっぱりあとがきも楽しんで読んでしまう。


⑤ その他
 ちょっとネタバレになってしまうが。。。(以下、結末を見たくない人は注意)





 最終巻だけは修羅シリーズを読んでいるようだった。

 項羽という人物はたった1人で100人も200人も敵兵を討ち取ったという逸話が残っている。鉅鹿の戦い(きょろくのたたかい)では5万~10万の兵で20万の軍勢を打ち破り、彭城の戦い(ほうじょうのたたかい)では3万の兵で56万の兵を打ち破ったとも言われていて、裏に誇張や計略の存在があったにしても、その圧倒的な武力から「究極の武将」という印象を抱く歴史好きも多いように思う。

 その究極の武将たる項羽が、いくら手負いの寡兵とは言え、ストーリー展開上簡単に討たれるわけにはいかないという事になる(と思う)。その解釈として、本作の創作上のキャラクター四凶の戦士「窮奇」が逃走先に現れ、立ち合うという熱い展開が待っていた。

 その描写は本格バトル漫画のようなド派手な戦闘ではないものの、スピード感や立会の臨場感がある。確かに人間を超えた力と技の応酬であると言える、武人として誉と言って良い最期が、描かれていたように思う。
 史実では多額の賞金を課せられた項羽は、首だけでなく身体を引き裂かれて、各々を持つ武将が分割して報奨金を得たようだが、普通の武将によってたかって八つ裂きにされるだけの最期はカッコ悪すぎる。
 項羽は本作でもやはり最期は人望を失い、その振舞いは「兇王」と呼ばれて終始悪役であったが、戦士としてはいい最期であり、楽しんで読めた。

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