ひと匙日記 

 週末のバイト前。何か食べておこうと思い、コンビニで買ったバターチキンカレー食べてから仕度を始めたらなんだか胃がもたれて気持ちがわるい。なんだなんだ?バターチキンカレーなのか?やめてくれよ。カレー食べてもたれるなんて哀しすぎる。ちがう。ちょっと胃がつかれてるだけや。しかしこのままバターチキンカレーを胃におさめたままバイトに行くのは危険な気がする。とりあえずトイレに行って1gも消化されていないバターチキンカレーを体外へ排出してしまう。ごめんよカレー。多少軽くなった胃を携えて家を出る。バイトの前に図書館に本を返しに行かなければならない。そうだ、図書館までの道の途中に新しくできたドラックストアがあったな。あすこで胃薬買っていこう。念の為。どれがいいかなんてわからないのでとりあえず聞いたことのある商品名の胃薬を選んでレジに並ぶ。
「服用に際してご不明な点はありますか?」
レジの店員さんの問いに「あ、ないです」と答えながら何かが引っかかった。店員さんの声、聞いたことがある気がする。財布がわりに使っているポーチから100円玉を一枚ずつ出しながら、だれだっけだれだっけだれだっけだれだっけと記憶を辿る。店員さんがレジに100円玉を流しこむ隙にチラリと顔を確かめる。メガネをかけてマスクをしているが、多分知っている人だ。知っている人だけど、知り合いではない。よく行くBARが同じで、知り合いの知り合いぐらいの人なので向こうがこちらを知っているとは限らない。挨拶をするほどではない距離の関係。もしかしたら知っている人に似ている知らない人の可能性もある。もし知っている人だった場合でも、あーこの人胃薬買ってるわー飲み過ぎちゃったのかぁ?とか思われたら恥ずかしい。商品とお釣りを受け取りながら、知り合いの知り合いである可能性にかけ、ちょっと深めにお辞儀をして去る。図書館はすでに閉館をしていたので、返却ポストに本を入れ、その場で先ほど購入した胃薬を開け、錠剤を口に含む。ペットボトルを口にあてて水と薬を流し込むため首を上に向けた時、返却ポストの投函口の真上に防犯カメラが付いていることに気が付いた。万が一、わたしが本を返却した前後に何か事件があった時、防犯カメラの映像を調べるとして、そこには返却ポストの前でゴソゴソと鞄から何かを出して口に含む人が思い切り映っているということか。防犯カメラはほぼ真正面にある。家の玄関にある覗き穴から向こうの人を見るような角度で映っているだろう。魚眼レンズの向こうで胃薬を飲む自分の映像を浮かべる。モノクロだ。どうか事件に関与しませんように。胃薬のおかげでバイト中、胃に違和感を感じることもなく楽しく過ごすことができたが、今後、バターチキンカレーを食べることに若干の不安を感じてしまう。が、バターチキンカレーに関しては数あるカレールーの種類の中でわたし的好きなカレーランキング上位に入っているわけではないのでそれほどのダメージではない。ただし、これが他のカレーの時にも同様に胃がやられた場合には大ダメージだ。それだけは避けたい。こうなったら明日から毎日カレーを食べ続けて胃に耐性をつけるというのはどうだろうか。毎日カレーを食べる自分の姿を想像する。魚眼レンズ越しに顔の伸びた自分が前髪を湿らせながらカレーを頬張っている。モノクロ。どうせなら毎日違うルーを試したいから、無印とか行って色んな味のレトルトカレーまとめて買って帰ろうかな。
「ルーに関して何かご不明な点はありますか?」
おそるおそる顔をあげると、知り合いの知り合いがレジに立っていた。