寝待ち月のこぼれ話 〜又吉直樹「舞いあがれ」〜
朝の連続テレビ小説「舞いあがれ」に敬愛するピース又吉直樹さんが出演している。
役名は八木巌。
古書店「デラシネ」の店主。(フランス語で“根なし草“の意)
物語の主人公岩倉舞(福原遥さん)の幼なじみ梅津貴司(赤楚衛二さん)に多大な影響を与え、心の拠り所となる存在だ。
(古書店の店主という役柄といい、服装といい、台詞といい、
又吉さん以外いないだろうというくらいピッタリの役柄だ。)
貴司くんが就職をして社会に溶け込めずに苦悩している時に
八木のおっちゃん(又吉さん)がこんな言葉を言ってくれる。
この時の貴司くんはまだ自分で詩を書いたりしていた。
それから時が過ぎ、舞がパイロットになりたいという夢を見つけた頃
貴司くんがデラシネの奥の居間で真っ白なノートを開いたまま机に突っ伏している。詩も書けなくなっていたのだ。
その向こうで八木のおっちゃんが何かを書いている。
“閉店セール。全品半額。“
え?デラシネなくなっちゃうの?(これはわたしの台詞)
貴司くんも(わたしも)動揺している。
貴司「今、この店までなくなってしもたら…ぼくどないしたらええんか…」
わたし「又吉さんの八木巌にもう会えへんのかな…」
貴司くんもわたしも泣きそうだ。
その時、又吉さんが(貴司くんから見たら八木のおっちゃん)こんな言葉を言ってくれる。
短歌にしてみ。
貴司くん 「短歌?」
わたし 「短歌!」
書きたい言葉がここ(貴司くんの胸をさして)にギュウギュウづめになってて、出てこられへんのやわ。五七五七七のリズムにのせたら、詰まってた言葉もながれだすで
これは八木のおっちゃんの台詞だということはわかっている。
わかっていても又吉さんの声でこの言葉を聞けて、完全に自分に言ってもらえたような気持ちで聞いていた。
わたしは貴司くんの斜め後ろくらいに立っていた。
それは簡単なことではない。流れでることは少ない。
ギュウギュウづめになった言葉が絡まりあっている。
それを少しずつほどきながら短歌にしていくしかないのだ。
それが今のわたしだ。
デラシネがなくなってしまい、貴司くんこれからどうなっていくのかがとても心配だ。