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月夜のこぼれ話 〜恋する惑星〜


昔バイトをしていた居酒屋で一緒に働いていた俳優志望の男の子のことを思い出していた。
端正な顔立ちでサラサラの髪は金色に染め、色の淡いカラーコンタクトをしていた。性格は明るく、仕事も真面目だったが、酔った客には絡まれやすかった。生意気そうに見えたのかもしれない。本当はそんな事はないのに。やっかみもあったのだろう。
彼はドラマやCMのオーディションを頻繁に受けていて、受かった作品などを「見てね」とわたしに教えてくれた。
中でも一番記憶にあるのは、現在でも日本のホラー映画と言えばコレ、と言えるような有名な作品の死体役として出演したことだ。バイト中に死体役をやった時の白目をむいた演技を見せて笑わせてくれた。

ある日、彼が最近観たと言う映画の話をしてくれた。
そこに出てくる女の子がわたしに似ていたと言われ、「マジで?なんていう映画?」と聞いたら

「恋する惑星」

と教えてくれた。そこに出てくる爆音で音楽聞いてる女の子に似ている…と。わたしは、その自分に似ているという人物のことが気にはなったが結局その映画は見なかった。



今、WKW 4K と称したウォンカーウェイ監督珠玉の5作品が上映されていて、わたしは二十数年越しにはじめて「恋する惑星」を観た。二十数年越しの確認だ。
結果的には音楽を爆音で聞いていた女の子(フェイ・ウォン)にわたしは全く似ていなかった。でも、とても魅力的な役の女の子だった。似ているなんておこがましいが、素直に嬉しかった。

あの彼は今でも俳優活動をしているのか気になり、名前を検索してみた。
彼の名前で唯一ヒットしたのはあのホラー映画だけだった。

わたしはこれから先も「恋する惑星」と言うタイトルを耳にするたびに、金城武でもトニー・レオンでもフェイ・ウォンでもなく、あの死体役の彼のことを思い出すだろう。