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親知らず

 今日、人生で初めて親知らずを抜いてきた。夕飯を食べるまではそこまで痛くなかったのだが、食べ始めるとのたうち回りたくなるほど痛み始めたのでおとなしくゼリーだけ食べて今夜の夕飯は終わりとした。

 しかし抜歯する前、長らく痛みという痛みを経験していなかったので、なんなら私は親知らずを抜くのを少し楽しみにしていた。先に断っておくがドMなわけではない。私は「心の揺らぎ」が好きなのだ。怒りにしろ、悲しみにしろ、楽しみにしろ。心が原点からズレる瞬間は嘘偽りのない自分と向き合う瞬間でもあるのでよく感情が鎮火しやすい私は余計にその瞬間が好きである。その瞬間に立ち会うために食べ物や飲み物は見たことのないものを食べたくなるし、ジェットコースターはまったく楽しいと思えないけど、怖さに体が支配される感覚が嫌いじゃなく乗ってしまうし、夢の中の私は理性があまり働いてない分感情的でむしろ好きなのかもしれない。(現実ではあまり感情的になりたくはないが。)

 しかし、痛みは痛みであり、結局のところ普通にストレスだけがかかり楽しんでいる暇などなかった。なんて正直な体と心なのだろう。今も薬が一刻も早く効いて痛みが引くことを願いながらこの文章を打っている。

 しかし、人間とは愚かな生き物なのでまた少ししたら痛みが楽しみになってしまうのだろう。私は死ぬまでのバンジージャンプもしたい。幸い、周りにも何人か同志がいたので有志集めには困らなそうだが、意外とお金がかかることを知り、今は及び腰となってしまっている。

 来月にはまた親知らずを抜きに行く。しかも今度は2本。その時にはもう私は痛みを楽しむ考え方すら打ちひしがれてしまっているかもしれない。そしたらまた新しい好きな瞬間を見つけよう。


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