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わかろうとしてくれる人の存在


眠れない夜にいつも思い出すことがある。


小学生の頃、あの日の私はいつものように妹と2人、同じ羽毛布団に入り眠りについた。

しばらく経つと毛布が揺れる感じがしたので目を覚ました。すると真横で妹が全身を震わせながら白目を向いていた。泡吹き出し、死んだように固まった。その光景が余りにも怖くて、全く眠れなくなってしまった。

母にそのことを伝えたが小学生の私の言葉は上手く伝わらず、大事とは思わなかったようだ。

私はそれ以降眠ることが怖くなった。春が過ぎ夏になっても羽毛布団を頭から被り、両耳を塞がないと眠れなくなってしまった。


暑い夏の日の夕方、ソファで寝ていた妹がまた震え出した。あとから知ったが、これはてんかんというものらしい。

母は叫びパニックを起こした。死なないで、死なないで何度も叫んでる。

私はしっかりしなきゃという思いで、救急車を呼び隣に住んでいる看護師さんを呼んだ。

救急車が到着し、病院に行こうかと言われたが、何を思ったのか「私は学童に行く」と答えた。

止まらない心臓を抑えながら学童まで走った。妹が病院に行くから休むことを早く伝えなくちゃと思っていた。

学童に着きドアを勢いよく開け、今日遅れた理由と妹にあったことを大きな声で話した。

話すと力が抜けたようにしゃがみこんでしまった。なんの気力もなくなってしまったのだ。

そこから何分か、ずっと自分の履いている靴を見つめていた。履いたり脱いだりを繰り返して。

すると背中に温かいものを感じた。学童の先生だった。先生は後ろから私を抱きギュッと手をつないでくれた。そして小さな声で「よく頑張ったね。怖かったね。」と。

その言葉で私は涙が止まらなくなってしまった。わんわん泣くのは恥ずかしかったので、静かに泣いた。止まらない涙が何粒も靴に落ちていった。

それから何年も普通に眠ることは出来なかったけど、あの先生のハグと言葉があったから、私は大丈夫だった。



人はたまにあなたのことをわかったフリをする。あなたのことわかるよ、辛いね、悲しいね、と。わかったつもりになるのはとても簡単である。

でも私もまた、わかるのである。あなたが本当にわかろうとしているのかを。

あの日の先生の目は私を必死にわかろうとしてくれていた。

何も私のことをわからなくていいのだ。私の本当の感情なんて私にしかわからないし、私ですらわからないこともある。

でもわかろうとしてくれることは、何よりも救いになる。

わからなくていい。わかろうとしてくれるだけでいい。



今でもたまに思い出す。あたたかいハグと、言葉たち。わかろうとしてくれた先生、ありがとう。


わかろうとしてくれる人の存在を、私はたいせつにしたい。

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