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決断-河野父子の生体肝移植 書評

✴︎はじめに この本は、親子間で生体肝移植をした河野洋平・太郎氏のそれぞれ手記をまとめたものとなっています。当時の実際の想いが切々と書かれていて、臨場感のある文章が続きます。それを読んで自らそれぞれ感じるものが必ずやあると思います。これは皆さんに一度は読んで欲しいです。今回の書評では、感覚的なところはご自身で体感してもらうことにして、河野太郎先生と臓器移植法について、本の内容に補足や感想を加えつつ書いていきたいと思います。

✴︎前書きより 「ドナーの経験者として一言どうしても言っておかなければならないことがある。もしあなたの家族が移植を受けなければならないような状況になったとしても、あなたが必ずドナーにならなければならないということはない。・・・ドナーになる人が偉くて、ドナーにならない奴は自分勝手だなどという理屈はない。人にはそれぞれ人生がある。そして、人はそれぞれの人生を大切にすべきだ。 僕は自分がドナーになったからこそ、生体移植が増えていくことに反対だ。・・・脳死移植への道を開いていかなければならない。」

この文章こそが、河野先生が最も我々読者に伝えたかったことの1つだと思います。河野父子の生体肝移植の話はただの美談にしてはならないのです。絶対に、脳死移植への道を開くべきだ。即行動に出たのが河野先生です。

皆さんは、臓器移植法改正の過程をご存知でしょうか。

・所詮他人事だった

「僕も・・・とりたてて法改正に向けて動くことはなかった。移植というのは、身近な人間が直面して初めて自分の問題となる。それまでは、移植という言葉をニュースで聞いてもしょせん他人事なのだ。」と河野先生は述べられており、私自身、色々調べてみると、野党、民主党の輿石東参院議員会長が2009年6月18日の記者会見で、「臓器移植法案を最優先でやらなければいけないとは思ってない。急がなければ死んでしまうという話でもない。一日も早く救いたい気持ちは分かるが」とおっしゃったということを知りました。

この発言はどうかとは思いますが、実際当事者にならない限り、世の中の認識はこのようなものなのかもしれません。しかし、明日は我が身。いつ何が起こるか分からないのです。そのことを胸に留めておくことが重要です。

・河野私案

党の調査会の役員(副会長・顧問は河野洋平氏)になられた河野先生は色々な勉強や調査の結果をまとめたメモ、俗に言う「河野私案」を作ります。「このメモの最大の焦点は、脳死になった本人が生前にドナーカードで本人の意思を残していなかったときに、遺族がその意思を忖度して臓器提供をすることができるとした点である。 何人も、その意思に反して臓器の提供を強制されることはないという大原則に変わりはない。・・・この改正案の最大の狙いは本人自身の意思表示がなかったときに、その人間の考え方を1番よく知っているはずの遺族に、意思決定をゆだねようというものだ。」 この骨子案に色々な専門家の意見や厚労省の移植対策室、衆議院法制局との議論を重ねて要綱をまとめたものが、臓器移植法改正河野私案と呼ばれるものです。

・その後

ここからは今回の本を出版した後の、実際の2009年の改正についてです。河野先生はA案の提案者の1人となっています。

A案とB、C、D案については河野先生のブログを参照ください。

そして、実際の改正後のことは、多くの方がご存知かとは思いますが、こちらを参照ください。

✴︎最後に 河野父子が生体肝移植をするにあたって、さまざまな葛藤があったことが描写されています。中でも当時、妊娠されていた奥さまは大変なストレスを感じられていたようです。そして、河野先生が手術をした後のこの描写をご覧ください。

「こんなに痛いのならば、ドナーになるのではなかったと正直思ったが、もう手遅れだった。ICUでは、ほとんど眠れなかったのではないかと思うが、よくわからない。とにかく時間の感覚がなく、いったい昼なのか夜なのか、何時間たったのかまったくわからず、お守りのようにナースコールを必死に握りしめていた。」 「一般病棟に上がった最初の晩も状況は変わらなかった。ICUのときよりも意識がはっきりしていただけ大変だった。この晩は僕のそれまでの人生の中で最悪の一晩だった。」

正直読んでいて辛かったです。私自身、あまりの痛みに失神し、入院中夜な夜な寝られないと言う体験をしたことがあり、余計に感情移入してしまいました。 生体肝移植を美談にしてはならないと強調される所以なのでしょう。

他にも、河野太郎先生の手記では、幼少期のお話やお父様、奥さまとの関係など、プライベートなエピソードを通して河野先生のお人柄にも触れることができたように思えます。

退院後のごまめの歯ぎしり(河野先生のブログ)はこの本の内容のうち、実際の手術の感想や当時の周りの人のことをダイジェストにした感じとなっています。

河野先生は信念を貫き通す人であり、また行動力が傑出していると再認識しました。 

臓器移植法について、あなたはどれだけ知っていますか?今まで脳死問題について考えたことはありますか?もしあなたが脳死、といった状態になった時、ドナーになるかどうか、意思表示していますか?もしあなたの家族がそのようなことになった場合、どうするか話し合ったことはありますか? この本は私たちに色々なことを訴えかけてきます。 まずは知ること。そこから始めていきませんか?と思うのです。

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