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【無料記事】二〇二三年のおさらい

 二〇二三年が終わる。

 どうせ年が変わって一時間もすれば普段の心持ちに戻ってしまうのはわかっているから、積極的に騒いでおこうとは思わない。正月特番も観ないで昏々と眠るか、黙々と執筆や散歩や読書に励むだけだ。

 しかしながら、物事には区切りや節目というものがつきものだ。今日を延々と続けながら生きていくのも精神的に健全とは言いがたい。無限ループに陥ったキャラクターが精神の安定を失っていくのはアニメでもなんでもそうだろう。

 というわけで本日大晦日、ここらで二〇二三年を総括してみよう。
 前回に引き続き全文を無料公開とする。是非お付き合いいただきたい。



 とはいえ、各月に何があったかを詳しく覚えているわけではないので、まずはスマートフォンに残った写真を頼りに大きなイベントについてのみ記述する。


三月 十年? ぶりのお伊勢参り

 太陽の神さまへ会いに行ったら雨に降られたの巻。けれども、雨の神社というのはまさに静謐でとても落ち着く。境内に無数にある社を巡るうち、初めて来たときのことをだんだんと思い出した。そのときは友人たちと一緒に訪れた。東京から車で。

 伊勢うどんがあまりに美味しかったのでまた行きたい。あれは現地で食べるべきものだ。取り寄せて自宅で作っても雰囲気が出ない。
 また、幻想的な景色を見ながらの深夜の徘徊も印象深かった。ヘッダ画像はこのとき撮影したものだ。
 伊勢から足を延ばして鳥羽水族館にも行った。ラッコの可愛さは語彙を失わせる。


六月 文学フリマ岩手8 出店

 今年は岩手県産業会館(通称サンビル)が工事のため使用できず、お隣の岩手教育会館での開催となった。人手が減ったという印象はなく、それどころか公式発表では過去最高の来場者数を記録したそうだ。めでたいことである。

 今回はブースの装飾と服装を合わせるなど、「人に見せる・見られる」ことを意識した出店ができたと思う。来年はどんな工夫をしようか今から考えている。その前に原稿を進めなければならないけれども。


九月 イベント主催・折坂悠太氏ライブ観覧

『銀河鉄道の夜』に登場する烏瓜の灯りを実際に作るイベントの運営スタッフになった。

 当日は五十名ほどの方に参加していただいた。夏の思い出に楽しんでもらえていればさいわいだ。
 準備から参加者の対応、撤収まで担当して、汗だくでてんやわんやの一日だった。この日は自宅に戻ってからぐっすり眠った覚えがある。

 折坂悠太氏のライブに関しては以下の記事にも書いた(有料)。

 この月はふたつのイベント、そして文学フリマ岩手での経験も踏まえて、人前に出ることについてさらに深く考える時期だったように思う。このような投稿が残っていた。

舞台に立たなければ見えない景色があると思うんですよ。
舞台というのは何かを演じるという意味ではなくて、広い意味で「人前に出る」ということです。
午後3:07 · 2023年9月30日

いや、まあ、もう出てはいるんだ。文学フリマにも出展してるし、烏瓜の灯り作りのワークショップは先頭に近いところにいたし。 でももっとこう、打って出るべし今しかない、みたいな気持ちがあるんですよね。
午後3:08 · 2023年9月30日

 この気持ちに対しどのように結論を出し、それを実現・表現していくか。
 来年の課題だ。


 他にもこまごまとしたイベントはあるのだけれど、きりがないので割愛する。

 今年は、これまでやったことがなかった体験に挑戦する機会が何度かあった。
 次はそれらについて書く。


真面目に服を買う

 時期は今年の五月。

 真面目に、と言うのは、それなりの値段の製品を、店へ出向いて、スタッフさんと会話し、試着し吟味して、納得して買う、という一連の流れだ。
 所詮服などどれも同じと思っていた自分にどのような宗旨替えが起きたのか、説明が難しい。気が向いたとか流れに乗ったとかそんな表現しかできない。
 とにかく、これがとても楽しかった。
 何しろ気分が良い。良い買い物をした、大事に着よう、と自然に思える。手持ちの服との組み合わせを考えるのも楽しい。私にとってはなかなか手応えのある値段だったが、品質はお墨付きだし、値段以上の喜びがあった。
 実は一枚、年明け最初に着るための服を用意してある。今から楽しみだ。

パーソナルカラー診断

 時期は今年の四月。

 近所の百貨店で行われたイベントに誘われて足を運んだ。一人あたり二十分程度の簡単な診断だったが、非常に多くの発見があった。淡い黄色の布を胸元にあてがったときの顔色のくすみっぷりときたら何かのギャグみたいだった。
 診断結果も面白くて、イエローベース秋とブルーベース冬の中間。「どちらのカテゴリでも濃い色なら全部似合います」と言われた。なんだそりゃあ! とひとしきり笑ったら妙なこだわりが少しばかり解けたらしく、それ以来上下黒い服も平気で着るし青いアイシャドウも躊躇いなく塗る。ひと目惚れした深いグリーンのTシャツはお気に入りだ。
 前述の服を買った話も、この体験がきっかけのひとつになっている。正直パーソナルカラーなんて胡散くさいと避けていたけれど、どんな結果が出るかわからないのだし、とにかくなんでもやってみるものだ。


短歌イベントへの参加

 時期は五月。

「現代短歌パスポート」創刊記念イベント@青山ブックセンター

 二〇二三年は短歌に再会した年で、とにかくがむしゃらに詠んだ。詠むためには人の短歌を読む必要があって、そうしていると次第に「好きな歌を詠む人」が自分のなかに確立されてくる。
 そんな矢先にこのイベントを知った。ウェブ配信がないと知って逆に覚悟? が決まってしまい、即座にチケットを買った。
 イベント中必死に取ったメモは今も大事に保存してある。

 短歌ブーム(この言葉を目に / 耳にするたび「shit!」と思う)の今、誰もが憧れる存在である現代歌人たちも常に何かと戦ったり、何かを信じたり、何かに抗ったり、何かへ祈ったりしているのだと感じた。
 そしてそれは、ごく普通の存在である私たちと――私と、何も変わらない。

 余談になるが、登壇したある歌人が学生時代に世話になった教員にそっくりだったのが印象深い。なんというか、全身で疲労を語る姿が。


おそとライティング(有料)

 やたら気取った表題になったが、要は有料で場所を借りて小説を書いたという意味だ。時期は七月と十二月。

 これまでに二度実行して、そのどちらもがカフェだった。
 一人のオーナーが経営している、場所も性格もまったく違う店をそれぞれ借り切って、ひたすら書いた。行き詰まったら場所を変えるのは鉄則だが、それをもっと派手にやったらどうなるか試してみた次第だ。

 一度目は、人のいない空間があまりにそっけなくて驚いた。なんというか居心地が廃墟に近かった。場所を居場所にするのは人の役割とかなんとか考え事のほうが捗ってしまって筆はあまり進まなかったものの、このときの感覚は必ず今後の創作に反映できると確信している。

 二度目は店と自分の感覚がぴたりと一致し、面白いように書けた。何しろこの店を舞台にした物語だからさもありなんといったところだ。さらに磨き上げて、来年の新刊に収録する予定でいる。


創作関連

別レーベル始動・自主企画開催

 今年の初頭、別名義「三日月洋燈商會(ミカヅキランプショウカイ)」を始動した。これに伴って開催した自主企画が「プラン・イオD」である。

「三日月洋燈商會(ミカヅキランプショウカイ)」は依頼された原稿を手掛けるときに用いる。
『月浜定点観測所記録集』シリーズ担当の「月浜定点観測所」と分けた形だ。

 別名義の宣伝もかねて開催した「プラン・イオD」は、

「イオ」は「五百」の読みのひとつ、また「D」はローマ数字で五〇〇を表します。
すなわち、
五〇〇文字以内の作品を
五〇〇円で執筆する

 といった内容の企画だった。
 ありがたいことにまとまった数のご依頼をいただき、精いっぱいの作品をお渡ししたつもりだ。

 納品した作品の一部を以下に掲載する。

初めての寄稿

 そしてこの企画の直後、岩手県花巻市にある宮沢賢治記念館さまより寄稿のご依頼を頂戴した。

 執筆活動を始めて最初の寄稿が、尊敬する師・宮沢賢治に関わるものであったことを心から誇りに思う。こちらも満足なものが書けた。本当に幸福なことだ。

定期購読マガジン開始

 これらを経て、十月の初頭に始まったのが今ご覧いただいている定期購読マガジン「Immature takeoff」である。
 お金をいただく前提で書くという緊張感に二か月ほど身を置いて、これは案外楽しいのではないかと率直に思う。そう、率直。フリーで公開している文章より、実のところ率直に書いている。身も蓋もない言いかたをすると、炎上を危惧する必要がだいぶ減った。なので、このマガジンを宣伝する際は「バズりも映えもないが、嘘もない」と書き添えている。


 なんだ、振り返ると結構頑張ってたな。
 やけに忙しい気がしてはいたけれど、本当に忙しかったんだ。頑張ったな。

 創作はこれからも続けていく。
 死ぬまでやる、そのつもりだ。


今年もっとも印象に残ったこと

 どんなに大事に思っている場所でも、やむを得ない理由でなくなることがある。

 簡潔に表すとこのようになる。

 以前からお世話になっていたふたつの店が、今年は相次いで閉店した。やむを得ないといっても経営不振や倒産といったことではなく、新しいことを始めたいのでそれに伴ってとか、借りていた建物の老朽化で、といったものだ。後者については移転オープンが決まっている。
 どちらも、自著のなかで舞台(のモデル)としてお借りしたことのある思い出の店だ。閉店を告げられたときはもちろん悲しかった。けれどもより一層、そこで過ごす時間を大切にしようと心に決めたし、これまで店で過ごした時間を強く思い出すようになった。どうしようもないときに人は謙虚な気持ちになるというが、これもその現れかもしれない。

 この文章を読んでいるあなたも、大事な場所があるなら何度でも通ってほしい。そこでの記憶をたくさん持ち帰ってほしい。
 そして、もし大事な場所が既に存在しないのであれば、そこで過ごしたことを何度でも思い出してほしい。
 思い出は誰にも奪えない宝物で、あなたのなかで永遠に光る。


 ここまでの文字数を見て慄いている。やり過ぎた。そろそろ締めに入ろう。


二〇二三年のベストバイ

ノイズキャンセリングイヤホン

 もはや言うまでもないし、もはやこれのない生活は考えられない。
 これと Spotify の組み合わせは私の生活を確実に幸せにしてくれている。

ループウィラーのパーカー

 前述した「真面目に買った服」とはこれのこと。デザイン、肌触り、重さ、風合い、どれを取っても申し分ない。
 これまでに型違いのパーカーを二枚、Tシャツを一枚、カーディガンを一枚購入した。Tシャツがまた良かった。やや薄手の生地がとろんと肌に馴染んで本当に心地好い。地獄のようだった今年の夏の心強い相棒だった。
 身軽に羽織ってどこへでも出かける最高の相棒の、来年の新色には青系のラインナップがあるらしく今から楽しみで仕方ない。

かき氷器

 今夏の暑さに耐えかねて導入した。ほぼ毎日稼働し、凌ぎがたい猛暑をいっとき遠ざけてくれた働き者だ。大抵は夏祭りで食べるものであるところのかき氷を自宅で作ると、雰囲気が出ないどころか驚くほどわくわくする。氷は削り放題だしシロップだってかけ放題だ。
 ところでかき氷のシロップはレッドブルと同じ匂いがすると思うのだが、今に至るまで賛同者がいない。困ったものだ。
 真冬の現在は、台所の戸棚で出番を待っている。

 改めて列挙すると、総じて「心地好く過ごすための道具」であるようだ。
 単純に便利なものもいくつか購入したが、強く印象に残るものではなかった。
 単純に、便利ならば心地好い、という話ではないらしい。大きな発見だ。

二〇二四年にやりたいこと

そろそろ書くのに疲れたので順不同で列挙する。

  • 新刊を作る(必須)

  • 文学フリマ岩手9に出店する(必須)

  • 「灯台島」へ行く

    • 場所は(まだ)伏す

  •  時間と空間にお金を払う

    • そこで過ごすという(モノに対する)コトに対してお金を払う

  •  アーティチョークを食べる

  •  「ウコギのほろほろ」を食べる

  •  東京大学総合研究博物館の小石川分館へ行く

 こんなところか。

 たくさん連ねていくと忘れがちだが、やりたいことというのは数をこなすのではなく、いかに楽しくクリアしていくかが肝心だ。

 すなわち。
 二〇二四年も、楽しく過ごそう。


BGM
SPECIAL OTHERS - AIMS

 Spotify によれば、私が今年もっとも聴いた曲はこれであるらしい。

 今年は本当に音楽に助けられた。思えば楽しいときも辛いときも音楽を聴いていた。音楽も本と並んで、常に私のそばにいてくれる友人であると確信した一年だった。
 来年も素晴らしい音楽とともに歩んでいきたい。ライブにもたくさん行きたい。




 さて。

 二〇二四年も楽しくと言った手前だが、無事に年が明けると確定したわけではない。
 どうも神さまはしっかりサイコロを振っているらしいからだ。

 猶予はまだ、十数時間ある。
 未来予知ができない以上、新たな年を生きて迎えられるとは限らない。

 もしも、
 外れの目が出ず、
 癇癪を起こした神さまによる再びの洪水が起こらず、
 あらゆるファンブルを乗り越えて、
 奇跡のように新年が訪れたら。

 そこで、またお会いしましょう。
 それでは。


 此瀬 朔真



※ 本稿は定期購読マガジン「Immature takeoff」の無料公開記事です。
 これ以降に本文はありません。

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