仕事終わりに幻想即興曲を弾く

幼い頃は、ピアノを適当に弾きながら「かえるのうた」を歌っていた。
そんなわたしに祖母と母がピアノを習わせてくれた。
曾祖母が母のために買ってくれたピアノらしい。

音楽がずっと好きで
大学でも少しばかり、音楽を勉強していた。
ピアノの授業で「何を弾きたいの?」と聞かれ、
素直に答えられなかったわたしに
先生が勧めてくれたのが「幻想即興曲」だった。

授業を一緒に受けていた4人の中で、一番ピアノが弾ける友達が
もう既に弾き終わっていた曲だった。
こんなに難しい曲をわたしにできるかもと思ってもらえた嬉しさと
もうあの子が弾いた曲という劣等感がごちゃ混ぜだった。

とりあえず譜読みにとりかかったが、難しすぎる。
あの有名な最初の一節、1~2秒の間に音が22個もある。
無理だ~と思いつつも頑張って練習を続けていたが、
就活を理由に、その授業から逃げた。
いわゆる、単位を落としたのだ。
根は真面目なわたし。卒業に必要な単位をもう取り終えていた。

社会人になった今
「幻想即興曲」を耳にするたびに、
ああ、最後まで弾いておけばよかった。
と思う。
そこで、仕事終わりに少しずつ練習することにした。

いつか、あの子に負けないくらい、素敵な「幻想即興曲」を弾いてみせる。
ピアノを買ってくれた亡き曾祖母に届くだろうか。
いつも応援してくれていた天国の祖父にも。
ばあちゃんと一緒に聴いててね。

今日も、仕事終わりにピアノに向かう。

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