象潟&三種への道⑧
約束の1時間が経過し、おじさんが戻ってきたところで私も岸に上がる。
おじさんにじゅんさいの入ったバケツを渡すと、ビニール袋に移してくれる。
中身を見たおじさんは「楽なのばっかだな」という。どういうことかと訊くと、「茎ごと切って探さないとちゃんとした小さなじゅんさいは取れない。これは水中から見えるところにある楽なやつばかりだ」ということらしい。なかなかの酷評に少しがっかりしていると「大丈夫。最初はみんなそうだ。来年また来ればいい」と慰めてくれたので、調子に乗って「いつが一番いいですか?」と訊けば、「6月だな。世界大会もあるし」という。
なんと世界大会には外国人も参加するという。日本人にもあまり知られていないじゅんさいを彼らはどうやって知るのだろうか。
最後に、きれいに下処理された鶏肉を、「中くらいのサイズだったから」とのことで、1羽3000円で分けていただいた。私たちがじゅんさいに夢中になっている間に一つの命が失われたのだ。命をいただく、ということを痛感する。
鶏肉2パックとじゅんさいをT先生の用意してきてくれた保冷バッグに入れて、私たちは沼を後にした。
時刻は13:30。三種町の直売所の一つ「じゅんさいの館」へと向かう。
T先生がその一角にある「お食事処花河童」で食べられるという「じゅんさい丼セット」(要予約)を14時に予約してくれていた。
直売所の奥に「花河童」はすぐに見つかった。カウンターで予約していることを伝えると、地元の主婦らしき女性が「はーい。席でお待ちください」と答えてくれる。
店内はそんなに広くなく、7割ほど埋まっている。壁には芸能人のサインもいくつか貼られているが、どれもローカル局の番組ロケで来た芸能人のようで、知っている有名人が見当たらない。空いている席に座って待つこと15分。忘れられているかと不安になったころ、「お待たせしてすみません」という声とともに「じゅんさい丼セット」がやってきた。
メインのじゅんさい丼には、じゅんさいの他、甘酢漬けの茗荷、オクラの輪切り、ちくわの千切りなどが乗っている。醤油を回しかけて食べてみると、じゅんさいのぬめりとオクラのぬめりに茗荷の甘酸っぱさとちくわの食感が加わってなかなか美味しい。空腹も手伝って、文字通りするする入る。
椀ものはじゅんさいのお吸物。お吸物と言っても、だしは昆布やカツオではなく、鶏だ。油分があるせいか、かなり熱い。熱々のスープに温められたじゅんさいは嬉々として口に滑り込んでくるが、そのぬめりまでもが熱い。最初は驚いたが、慣れてくるとこれが美味しい。
スープは鶏出汁のラーメンスープのような風味でややしょっぱいが、汗だくでじゅんさいを摘んできた体にはこの塩分がたまらない。温かいじゅんさいというのも初めて食べたが、これだけ熱せられても動じないぬめりと歯ごたえに驚かされる。確かに、これなら鍋も美味しいだろう。
小鉢のじゅんさいには酢味噌がちょこんと乗っている。これも初体験だが、味噌がじゅんさいに絡みそうで絡まない感じが面白い。
これらの他、お新香にデザートのメロンで定食は完結したように思えた。
その時だ。お店の方が「これもどうぞ~」と小さなガラスの器に盛られた白いものを持ってきた。白いものの正体はソフトクリーム。その上にはしっかりじゅんさいが乗っている。正体を理解したところでT先生と顔を見合わせる。戸惑いつつも食べてみると、甘いソフトクリームの中でじゅんさいがところどころでぬめりつつ「シャクシャク」と顔をのぞかせる。じゅんさい自体にはこれといった味が無いから特別どうということはないが「だったら乗せなくても…」という気もする。
最後のソフトクリームに首をかしげつつ、お会計を済ませて店を出る。ここからは男鹿半島ドライブの予定だが、その前に、せっかくここまで来ているのだからと、「ドラゴンフレッシュセンター」に立ち寄る。ここは地元の野菜や果物の直売所で、今の時期はスイカやメロンが積まれている。ここに来て初めて三種町が「八竜メロン」というメロンの名産地であることを知る。八竜の竜をとってドラゴンフレッシュセンターなのだと思うが、こういうセンスがなんだかぐっと来るのは私だけだろうか。
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