象潟&三種への道⑨
「ドラゴンフレッシュセンター」を一通り眺めた後、三種町の北にある能代に住むT先生の叔母様に電話をしてみることにする。すると叔母様は車で10分ほどのところにある美容院に来ているというので、その美容院を目指すことに。叔母様ご夫婦と美容院の駐車場で20分ほど話す。
美容院というからてっきり髪を整えに来ているのかと思ったが、そうではなく、自宅で使っていない食器などをこの美容院の店主宅に譲りに来たのだそうだ。立派な柳行李の中には洋食器や和食器など大量の雑貨が詰まっている。「今のうちにやっておかないと」となんだか心もとない言葉を発してはいるが、私たちの急な来訪にも快く対応してくださる様子はまだまだお元気だ。
ご自分たちが話している秋田弁についても「なんのことかわからないでしょう?東京の人にとっては外国語みたいなものだものね」と明るい。この日、三種町の釜谷浜海水浴場で開催されている「サンドクラフト2019inみたね」についても聞いてみると、「あぁ、あの砂のね。あれは良いわよ」とことだったので、予定外だったが、釜谷浜に寄ってみることにする。T先生は、そこに行けばわれわれの旅の目的の一つ、「ババヘラアイス」もあるはずだという。
「ババヘラアイス」とは秋田県ではポピュラーな存在として知られる、路上販売のアイスのこと。中高年女性「ババ」が「ヘラ」を使って薔薇の花の形に盛り付けるあっさりした味のジェラートのようなもので、秋田県民なら知らない人はいないという。「噂のけんみんショー」で紹介されたことを機にその名は全国に知れ渡ったようだ。
国道沿いや観光地の駐車場の一角に立っているパラソルがババヘラアイスの目印だ。T先生情報では、ババヘラアイスの売り子さんたちは、朝、会社のライトバンに乗せられてその日の持ち場にアイスの詰まったタンクとパラソルと一緒に降ろされ、一日の仕事が終わると、また会社のライトバンが迎えに来るのだという。
こうしたシステムのため、ババヘラアイスのパラソルは人里離れた国道沿いにも突然現れる。それほど車が通るとも思われない道にもいたりするので、どういったマーケティングがなされているのかは全くの謎だが、暑い日も雨の日も、たとえどんなに売れなくても、迎えが来るまでは帰れないというのはさぞかし大変だろうと思う。
15時少し前、釜谷浜に到着。実はこのお祭り、27日と28日が開催日なのだが、28日は露天コーナーが14:30で終わるため、私たちが到着したころには露天は店じまいの真っ最中だった。当然のように人影も少ない。「でもババヘラはやってるはず」とのT先生の予言は的中し、多くの店が店じまいする中、目当てのカラフルなパラソルを見つけることができた。
幟には「元祖ババヘラアイス」とある。味は「ブルーアイス ソーダ&レモン」。ネットで見たババヘラアイスはピンクと黄色だったが、ここはブルーらしい。
注文すると、店のおばさんが無造作にアイスを掬い、コーンの上に器用に薔薇のかたちに盛り付けていく。「最初はかなり練習したんですか?」と訊くと「ううん、最初に一度やってみて、それでいいってことになったからあとはぶっつけ本番。形は昔から見てるから(習わなくてもできる)」と淡々としている。その冷静な横顔がかえってプロフェッショナルを感じさせるから不思議だ。
アイスを片手に砂浜に作られた砂像を見学する。「砂像甲子園」と銘打たれたエリアには、地元の高校生が作った砂像が並ぶ。今年のテーマは「Renew~更新~」だそうで、生命の循環を感じさせる作品が多いが、テーマが抽象的過ぎて今一つ感情移入しづらい。この他にも、地元の企業や個人が作った作品などを好き勝手に批評しながら一通り見て回る。30分ほどで車に戻り、この旅の目的の一つである「なまはげ館」をカーナビの目的地に設定した。
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