切り取られた作文

小学校三年生の時、宿題で何かの文章を書いたことがある。最近のできごとか何かを書いたのだと思うその中でわたしは「母に理不尽に叱り飛ばされたエピソード」を、母とわたしの台詞を入れて書いた。そして、書き終わったあと机を離れて戻って来たら、2枚使った原稿用紙が2枚とも真ん中できれいに半分に切られて、冒頭の半ぺらと末尾の半ぺらをくっつけるようにして置いてあった。母がわたしの作文を読んで、母のことを書いた部分を削除したのだとわかった。
切り取られ作文を目にして、わたしはその後母に打擲されることを覚悟したが、母は一切何も言わなかったし何もしなかった。ぶたれるよりその沈黙の方が怖かった。
母は作文を読んでどう思っただろう。竹の物差しを当てて切り取ったと思しき、真っ直ぐで少し毛羽立った紙の切り口。
わたしが自分の痛みに向き合おうとすれば、母の存在を避けては通れない。だからこれからも母について書いたり話したりするだろう……母はそれを望まないかもしれないが。ただ、かつてどんないきさつがあったにせよ、母を一方的に悪者にするような書き方はもうできないししてはいけないと思っている。家族の課題について考えることは、母の尊厳を確かめることにつながる筈だ。

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