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静けさが失われた世界

宮本常一の「地の声」によれば
府中の大國霊神社で太鼓が鳴ると
新宿まで聞こえたという。
昭和十年代までの話で、日本中が静かだった。
山仕事をする男が歌えば
どこかで働く女が声を重ねる。
姿は見えなくても
男女が掛け合いをしながら親しくなり
恋仲になるのが普通だったという。
自然の音もよくきこえたから
津波を事前に察知し助かった人も多い。
今や世の中に騒音があふれるようになった。
騒音に慣れるということは
色々なものを聞きわける能力を
私たちから失わせていると彼は言う。
人間には静けさが必要で
自然の中に身を置くことで
新しい生命を持ち続けるのだとする。
感覚の鈍化が新たな生命を途絶えさせるなら
私たちは本当に生きているのだろうか。


写真:魚住心


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