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お得はその時だけのもの、徳は一生の宝もの

「がんばっておやりなさい。なんと言っても高い志がいるよ。うんと遠くにある志にひたすら向かっていけば、つらいことも悲しいことも、やがては通り過ぎていく。そのうえ気がついたら、ちゃんとお金もついてくるよ」
「どんな人に対しても親切で敬う気持ちを忘れない徳のある人は、同じように徳のある人から慕われるようになるものですよ。そのような人は絶体絶命の窮地に立たされても、必ず、どうにか切り抜ける。徳のある人が、身を挺して助けてくれるからね」

                  (『女子の教養』致知出版社より)

これまで物書きをしてきて、実に祖母の教え通りだと実感します。
これまでも、今も、これからも、私にとっての文筆行(あえて「行」の字をあてました)とは、この教えが基本となるのは間違いありません。
というとずいぶんかっこいいのですが、数字に弱く不器用な私はそうするほかない、というのが正直なところです。
なかば自虐的冗談で「武士の商法」と、しばしばこぼしますが、そのくせ、心の奥では、ちょっと「えへん」という気持ちなのです。

人生とは修行そのものです。
天は様々な経験を用意して、段階的に私に与え続けています。
そうしたことについて私は、「すべてシナリオ通り」という感じがしています。
もっとも、こんなふうに冷静に達観できたとしても、人間には感情というものがありますから、悲しんだり苦しんだりします。
心というものが与えられていることにも神の御技を感じます。その哀しみや苦しみが、私の生きる力を養っているのでしょう。
つらいことを越えたあとは、少しだけ自分が強くなっているのがわかるから。

その苦しい時期をどのようにして乗り切っていったかというと、とにかく仕事に打ち込んだのです。
文章には否応なしにメンタルが表れてしまいます。
心が乱れていては絶対にプロとしての仕事はできない。

ひとつひとつの仕事が私の足跡として残るのです。
その足跡が、自分が納得できるものであってほしい。
それは絶対に譲れないものです。

筆を執る際には、嵐の中で微笑んでいるようなイメージを繰り返し脳裏に描き心を静めました。

それができたのは、やはり「ギャラ度外視で良い仕事をしよう」という姿勢があったからかも知れません。
その姿勢は、良縁を招く・・・つまり、徳のある人との出会いをもたらすようです。

ありがたいことに、私は素晴らしい人とのご縁に恵まれてきました。それは途切れることなく今もつづいています。
素晴らしい人と出会うことは、佳い仕事を手がけることに繋がります。
素敵な人と出会い、素晴らしい仕事に恵まれることによって、すでに恩恵は蒙っています。
それに気づいたとき、「ああ、これが祖母の言う、お金は後からついてくるということだろうか」と思ったものです。

自分がどれくらい得するかということは、つい考えてしまうものかもしれませんが、社会の価値観は、もうずいぶん前から二極化し、「得」よりもまずは「徳」を重んじる人が増えてきたような気がします。

「お得はその時だけのものだけど、徳は一生の宝ものだからね」
祖母の言葉を、経験を通じて習得している人が増えているようで、嬉しい気持ちになります。



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