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「深山の百合」とは?

夏になると、百合を飾ることが多くなります。
その姿は優美でありながら潔く
その香りは言うに及ばずで
桔梗やリンドウ夏椿やムクゲと並んで涼を呼ぶ花だからです。

昔、軽井沢で夏を過ごしていたころ
朝早く高原を散歩していると
霧の中に忽然と百合が咲いているのを見いだすことがよくありました。
「誰か」に出逢ったような感じで小さく驚いたりしたものです。
軽井沢の百合はヤマユリが多く
そこまで香りは強くなかったと記憶しています。
逆に言えば香りが先に漂ってこなかったから
ビックリしたのかもしれないのです。
花の中には、圧倒的に香りが先に来るものがあると私は感じています。
金木犀にしてもクチナシにしてもまず香りに気づいて、
立ち止まって見廻すとどこかに花が咲いているのを見つけます。
不思議なことに、香りはだいたい通り過ぎた後に香ってくるので
私はいつも「引き止められる」と感じます。
香りに引き止められて、花の存在を知るのです。
百合も恐らくは、そうした類いの花だと思われます。

明治の女子教育の先駆者である下田歌子は
日本女性の美しさについて「深山の百合」と表現しました。
自分から宣伝せずともその風韻に誰もが気づかずには居られない。
その人の見た目や言葉以上に
「醸し出される波動」が人を引きつけてやまない。
今の言葉でわかりやすく言えばそういうことになります。

開きかけていた百合が今朝は完全に開きました。
百合は、咲きかける時が、最も濃く香ります。
残る蕾が咲き始めたことも香りで知らせてくれるのです。

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