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1 それは窃盗ではないか。

 先週の私はにぎにぎしていた。おにぎりを握っていたのではない。大騒ぎをしていたわけでもない。

 普段からよく言われるのだけど、私はオノマトペが多い。これがエッセイにも出てしまう。どのくらい通じるのか心配。なので解説すると「にぎにぎ」とは眉間にしわを寄せて歯を摺り合わせてこすっている状態のこと。

「許せない」と腹を立てていたのだ。

 始まりは日曜日。髪を切りに行った。以前クーポンをもらって行った美容院で、気に入ったからまた行った。

 何が良かったかと言うと、以下のとおりである。

 私の前に先客のおばあさんがいた。髪を切り終わり、最後にアシスタントの女の人が乾かしてブローをしていた。でも口ばかりが動いていてブローの手は止まりがちだった。

 そんな中、おばあさんの携帯がピロピロ鳴った。おじいさんがお迎えに来たのだ。
 アシスタントの女性が「出ます?」って聞いても、「いいからいいから」とおばあさんは気にしていなかった。
 しかしこの鳴りが激しかった。しつこかった。ピロピロピロピロ止まらなかった。おばあさんも次第に焦り「もう、乾けばいいから」と帰りたさそうだった。

 それでもアシスタントの喋りは止まらず、手は止まりがちだった。

 ピロピロ鳴る音を聞いていたら、私もムズムズしてきた。おばあさんの髪はかなり少なくて、地肌も見えていたりして、そんなに乾かすのに時間はかからないはず。

「急いであげて!喋んなくていいから。」と気をもんだ。

 おばあさんはしびれを切らして「もういいから」と立ち上がろうとしたりして。でもアシスタントは「でもまだ乾いてないから、もう少し」と、焦る様子は見られなかった。

 ついに乾くと、おばあさんはそそくさと椅子から立ち上がり帰ろうとした。そしたら美容師さんが「お待ちください!」と止めた。

「最後の仕上げをしますから。」
「もういいから。」
「いえいけません。このままではお帰しできません。最後の仕上げ、どうかさせてください。2分でいいですからください。おねがいします。」

 と言って頭を下げたのだ。美容師さんのプロ意識に震えた。おばあさんもそうなのだろう。仕方ないわねといった感じで椅子に座り直した。

 そして美容師さんは、髪をとかしながら、薄いところへきれいに流して地肌が見えないようにセットしたのだ。「すごっ!」っと思った。鏡越しに見ていたのだけど、見事だった。

 きっと禿げたところを隠せるように長めに切ってあったのだろう。禿げとはほど遠い頭になったおばあさんは気分良く帰っていった。ニコニコと。

 ちなみにピロピロうるさかったおじいさんがどうなっちゃってたのかはわからない。

 そして次は私の番。

 アシスタントの声は大きかった。頭の上で絶え間なく話されて頭が痛くなった。しんどくなっちゃったから、

「頭の上で話されると、ちょっと痛い」

と言ったけど、話がやむことはなかった。

それは置いといて、

 髪を切ってくれたのは美容師さんだった。(アシスタントの方も美容師さんなんだろうけど、呼び名としてこのように言い分けさせてもらいました。)

 おまかせで切ってもらったら、いびつな頭の形はどこへやら。きれいなシルエットに大満足。とても上手だった。

 すんごく長くなったけど、こういうことで、この美容院へまた行ってきた。

つづく

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