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寺へ着くとお滝は以前のようにお桐の隣に座った。お桐の向こう隣に座っているお孝がお滝を見てうれしそうな顔をした。お滝が「おはよう」と声をかけると「おはよう」と返したのだが、その声の大きさにお滝は驚いた。お孝は無口で声も小さい。お桐とは喋るがお滝と話すことはほとんどない。そのお孝から歓迎するような挨拶をされてお滝はここにいていいのだと、居心地の悪さが消えたのだった。
宿屋へ墨絵を観に行けなくなったお滝は、次の日の朝、渋々と寺小屋へ向かった。背中にタカベの視線を背負いながら。いつもは「行ってくる」と朝飯を食べたらすぐに出かけるタカベであったが、この朝はお滝とお桐が寺小屋へ行くのを見送ってから仕事へ行った。
その日の夕飯は、いつものようにお滝とお桐の作ったご飯を三人で食べた。娘二人が寺子屋のあと料理の仕方をハモの嫁に教わってくる。それを二人で家で作る。当然お滝はお桐といっしょにそうしていると思っていたのに。タカベは食べながらお滝に尋ねた。