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(松之助は踏み絵を踏むとか?)
六一郎がいなくなってしまい、六郎太の落胆は尋常ではなかった。
六郎太から明日絵踏みがあると聞いて、六一郎はがっかりした。三か月前、切支丹の集まりに新しい者が来た。顔を隠してはいたが、どう見ても松之助だった。
六郎太の息子、六一郎は二年前に天草へ来た。移住するにあたり切支丹の娘、クネと一緒になり、昨年息子が生まれたばかりだ。
村は五、六家族を一組にして七つの組に分けられていて、各組には作之助が選んだ組頭が一人ずついる。土着の天草の民や九州地方からの移住者が多い四つの組をまとめるのは大頭の太郎兵衛で、それ以外の三つの組をまとめるのがこれまた大頭の馬四郎になっている。
朝は読経の後、字を習う猿彦の横で松之助は阿弥陀経を書き写した。字を知っているとは言え、お経の漢字は見たこともない難しいものばかり。一画一画、間違わぬように目を凝らして書いていった。