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結婚したい女たち/木花薫

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妥協なんてしないアラサー女三人の物語。立野香(たつのかおり)、一花(いちか)、お琴(こと)は生まれも育ちも違うが婚活で親友になる。お互いを羨み切磋琢磨するが運命の歯車が回り始め……
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#虐待

40 結婚したい女たち 決断

短大で保育士の免許を取った実紀は卒業と同時に保育所で働き始めた。二十五年前のことである。小さな保育所だったが夜働く母親のための深夜保育もしていた。実紀の母親も夜の仕事をしながら育ててくれたから実紀は喜んで夜勤の仕事もした。不規則で長時間の勤務はきつかったけれど預けられた子どもたちが自分に重なってやりがいを持って働いていた。

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39 結婚したい女たち 決断

「だから言ったのよ、そんな女と結婚するなって。父親が誰だかわからないなんて凶暴なのは父親がやくざだからじゃないの?」

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38 結婚したい女たち 告白

木下秀雄四十三歳は大きく息を吸った。ゆっくり吐くと一枚の紙を手に部屋を出てキッチンへ行った。夕食の片づけをしている一花に「話がある」と声をかけたのだけど「見てわかるでしょ今忙しいの。あとにしてよ」と素気無く言い返された。昔の一花なら子どもの頃飼っていた犬のように「なに?」と駆け寄ってきたのに。結婚してすっかり変わってしまった一花。 四年前に新入社員として入社して来た時は名前の如く花が咲いているように美しかった。ラッキーなことに部署が同じで話をする機会はいくらでもあった。年齢

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36 結婚したい女たち 告白

 どこもかしこもクリスマスの飾りが煌びやかでサンタの心躍る音楽が流れている。だけど心の落ち着かない年の暮れ。英雄の月に一度の通院は回を重ねて三回目の診察でのことだった。

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35 結婚したい女たち 告白

「一花ちゃん」 と実紀の優しい声が響いた。 殺人未遂という恐ろしい罪を語ったというのに一花を見る実紀の眼差しは温かいままだ。どんな自分でも受け入れてもらえると思えるほどに実紀から息子を落としたことを非難する気配は感じられない。そんな見守るような実紀の存在に安心した一花は、 (この人になら何でも言える) と自分を止められなくなった。いや止めたくなかった。すべてを吐き出したくなって更なる罪を告白した。

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34 結婚したい女たち 秘密

五年前の九月。夏休みが終わって新学期が始まりまだ暑い日の続く頃だった。 暑さがピークに達した午後三時。一花はダイニングで窓の外を眺めながら座っている。一歳十か月の息子英雄は寝室で昼寝中だ。一緒に昼寝をしていた時もあったけれど最近は息子のいない自分だけの時間が欲しくてこうやって息抜きの一時を過ごすようにしている。 真っ青な空に浮かぶ大きな白い雲は疲れた一花の心に一枚の絵として映った。現実感がなかったのだ。心地よさそうに浮かぶ雲を見ていたらこのまま青空へ飛び込みたくなった。

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31 結婚したい女たち 秘密

いつもよりスピードを出した一花の車はあっという間にマンションに着いた。東西に横広な九階建てのマンションは北側一面が住民専用の駐車場になっている。一花は急ハンドルを切って駐車場へ入った。自分の駐車スペースまで行くといつもはバックで停めるのにそんなまどろっこしいことなんて出来ない。頭から突っ込んで駐車すると荒々しくドアを閉めて足早に東側のエントランスへ歩いた。

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20 結婚したい女たち 一花の家

景色をひとしきり楽しんだ香とお琴がダイニングに戻るとやっぱり一花の元気がない。 「一花どした?」 とお琴が心配して声をかけた。それで気づいた香も、 「顔色悪いよ」 と一花をみつめた。 「最近いそがしくてあんまり寝てなくて」 言葉少なな一花の目の先のリビングにはたくさんの本が乱雑に置いてあった。開かれたページには人体図のイラストが載っている。ヨガのポーズをより深く理解するために一花は解剖学の本で骨格筋の勉強をしているのだ。

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12 結婚したい女たち 不都合な現実 一花

市内の中央にある九階建てのマンションに一花は一人で住んでいる。

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