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結婚したい女たち/木花薫

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妥協なんてしないアラサー女三人の物語。立野香(たつのかおり)、一花(いちか)、お琴(こと)は生まれも育ちも違うが婚活で親友になる。お互いを羨み切磋琢磨するが運命の歯車が回り始め……
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#連載小説

創作大賞応募作品 結婚したい女たち

1 結婚したい女たち プロローグ 「ここの石焼きパスタがホントにおいしいんだって!」  私、立野香は緊急事態宣言中にもかかわらず、友だち二人とパスタを食べに来た。美味しいお店に目がないお琴一推しのパスタ屋へ。 「やっぱ少ないね。ランチタイムはカウンターも満員になるのに。」  細長い店内は、右側に厨房とカウンターがあり、左側の壁に沿ってテーブル席が三つ、そして奥のくぼんだスペースにもうひとつテーブル席があった。カウンター席のお客さんは一つ空けてぽつんぽつんと距離をとって

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45 結婚したい女たち エピローグ

「実はね、結婚することになったの」 ミーちゃんがいないまま迎えた秋分の日。高級フレンチレストランでランチのコース料理を食べながら香が言うと「おめでとう」とお琴と一花が予定調和にお祝いの言葉を言った。

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44 結婚したい女たち 運命

ミーちゃんと何度も通った代官山のオーガニックカフェ。ここでミーちゃんと座っていると「かわいい」と女性たちから声をかけられた。その思い出のカフェに香は一人で座っている。

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43 結婚したい女たち 運命

 ゴールデンウイークが終わりまたしてもコロナ感染者が急増し始めた五月。香はカフェにいる。コロナのこともあって周りにほかの客はいない。例年よりも肌寒いこの日、レース編みのカーディガンを羽織って外のオープンテラスに座り一人で真っ赤なハイビスカスティーを飲んでいる。

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42 結婚したい女たち 決断

今日の家事を終えた香は自分の部屋で薔薇の花の形をしたピンクのマットに座り込んでいる。ベッドにもたれてアネモネを読んでいたが「ふう」と溜め息をついた。 アネモネは実家に戻って来てから読み始めた。世間が眉をひそめるスピリチュアルなことが当たり前のこととして語られているところに惹かれて毎号欠かさず読んでいる。見えないものを信じている人たち、いわゆる自分軸で生きている人たちの記事を読んでいると内容はさておき勇気をもらえる。自分の信じるように生きればいいのだと励まされるからだ。しかし

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41 結婚したい女たち 決断

香は胸のあたりまで伸びた髪を思い切り上げてキュッと縛ると、結んだゴムに桜色で編んだ水引のバングルをかぶせた。白い花の刺繍がしてあるベイビーピンクの上下のスエットを着て張り切っている。今日は一花の引っ越し。その手伝いに行くのだ。 チェロキーで迎えに来てくれたお琴は一人だった。

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40 結婚したい女たち 決断

短大で保育士の免許を取った実紀は卒業と同時に保育所で働き始めた。二十五年前のことである。小さな保育所だったが夜働く母親のための深夜保育もしていた。実紀の母親も夜の仕事をしながら育ててくれたから実紀は喜んで夜勤の仕事もした。不規則で長時間の勤務はきつかったけれど預けられた子どもたちが自分に重なってやりがいを持って働いていた。

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39 結婚したい女たち 決断

「だから言ったのよ、そんな女と結婚するなって。父親が誰だかわからないなんて凶暴なのは父親がやくざだからじゃないの?」

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38 結婚したい女たち 告白

木下秀雄四十三歳は大きく息を吸った。ゆっくり吐くと一枚の紙を手に部屋を出てキッチンへ行った。夕食の片づけをしている一花に「話がある」と声をかけたのだけど「見てわかるでしょ今忙しいの。あとにしてよ」と素気無く言い返された。昔の一花なら子どもの頃飼っていた犬のように「なに?」と駆け寄ってきたのに。結婚してすっかり変わってしまった一花。 四年前に新入社員として入社して来た時は名前の如く花が咲いているように美しかった。ラッキーなことに部署が同じで話をする機会はいくらでもあった。年齢

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37 結婚したい女たち 告白

一花の通い始めた診療クリニックには託児サービスがある。しかし診察の三十分間でさえ一花は英雄を預けたくなかった。預けている間に虐待がばれるかもしれない。心配で診察を受けるどころではない。しかし先生からは預けるように指示された。夫婦関係の破綻によるノイローゼの治療なのだから診察の内容は夫婦関係を赤裸々に語ることになる。いくら二歳といえども聞かせるような話の内容ではないと言うのだ。渋る一花だったが、 「何か預けたくない理由があるんですか」 と単刀直入に訊かれてこれ以上ごねたら疑われ

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36 結婚したい女たち 告白

 どこもかしこもクリスマスの飾りが煌びやかでサンタの心躍る音楽が流れている。だけど心の落ち着かない年の暮れ。英雄の月に一度の通院は回を重ねて三回目の診察でのことだった。

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35 結婚したい女たち 告白

「一花ちゃん」 と実紀の優しい声が響いた。 殺人未遂という恐ろしい罪を語ったというのに一花を見る実紀の眼差しは温かいままだ。どんな自分でも受け入れてもらえると思えるほどに実紀から息子を落としたことを非難する気配は感じられない。そんな見守るような実紀の存在に安心した一花は、 (この人になら何でも言える) と自分を止められなくなった。いや止めたくなかった。すべてを吐き出したくなって更なる罪を告白した。

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34 結婚したい女たち 秘密

五年前の九月。夏休みが終わって新学期が始まりまだ暑い日の続く頃だった。 暑さがピークに達した午後三時。一花はダイニングで窓の外を眺めながら座っている。一歳十か月の息子英雄は寝室で昼寝中だ。一緒に昼寝をしていた時もあったけれど最近は息子のいない自分だけの時間が欲しくてこうやって息抜きの一時を過ごすようにしている。 真っ青な空に浮かぶ大きな白い雲は疲れた一花の心に一枚の絵として映った。現実感がなかったのだ。心地よさそうに浮かぶ雲を見ていたらこのまま青空へ飛び込みたくなった。

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33 結婚したい女たち 秘密

「お琴ちゃん西中之村に住むんだってね。空き家になってる古い家を取り壊して新しく建てるそうじゃない。すごいわよね大きな車にも乗ってるし。三十代だから移住者用の補助金も出るしね。うらやましいったらありゃしない。私はここに来たとき四十を過ぎてたから何にも貰えなかったのよ。ま、あの人はここの人だけど」

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