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おつかいKISS

今日はスーパーに買い出しに行った。
穏やかな昼下がり、天気も良い。
僕は26歳童貞実家暮らしのフリーター、それ故、
家庭内の人権はひとつまみしかない。
買い出しなんて、言われる前から行くのさ。

品物は玉ねぎとソースと挽肉と牛乳と納豆。
馬鹿にしやがって、
こんなFランク任務を子供部屋おじさん2駅前の俺に頼むとは。
体力が有り余ってしょうがねえ。

店内に入り、玉ねぎを手に取ろうとしたその時、
前にいた主婦が玉ねぎを何個も手に取り
「え?え?これも?」と呟きながら手に取っては売り場に戻す。

おいおい雲行きが怪しいぜ、
野菜売り場の鑑定士である主婦がそんな弱腰でどうする?
後ろの野菜売り場童貞は、困惑するしかないんだぜ?

ただ、一度だけ俺の前にいた主婦は「うんまぁこれかな」と
手に取った玉ねぎを見ながら呟いた。
それを俺は見逃すほど錆びちゃいない。

自慢じゃないが高校の頃はスクールカースト4軍に所属し、
日頃1軍や2軍が自分の悪口を言っていないかどうか耳で"聴察"
していたものだ。

さらに主婦はその玉ねぎを売り場に戻した。

しめた、これは俺のだ、即座に手に獲った。

「なんか全部ビミョー」
後で合流した旦那さんに主婦は言った。

クソ!ブラフか!
だがこの理不尽を俺はカゴの中に入れ、
肉売り場で挽肉をほぼ見ずにカゴにぶち込んだ。

調味料売り場にて、店員さんが言った。
ウスターソース、中濃ソース、とんかつソース、これ全部同じソースです。
これもブラフだ。

「舐めるなよ店員?嘘をつくなよ?このソースに関しては「とんかつ」って書いてあんだろうがおい、もう失敗は許されねえんだよジジイ!」
顔面を1cmの距離まで近づけ凄んだ。

「茶色くてしょっぱけりゃ同じだよ馬鹿面ボケ」
店員さんも負けじと凄む。

「同じならなんでウスイだの濃いだの書いてあんだよ?」
ともう顔面は5mmぐらいしか離れていない。

「作ったやつの名前だよ無知が」
と店員さんも顔を近づけ間は3mm

「じゃあこのシワシワの犬のソースなんだよ」
と俺

「犬が作ってんだよ」
とここでは、既にキスをしながら喋っていた。


ファーストキスだった。


心をおじさんに奪われた俺は、
シワシワの犬のソースを持ってレジに走った。

ドキドキする。

走った事による動悸なのか、恋なのか分からない。

胸の高鳴りをなんとか抑え買い出しを終えた。
落ち着きを取り戻した私は、母に買い出しの報告をした。

牛乳と納豆を買い忘れた。
私ったらドジ!

またスーパーに行かなきゃ。

胸の鼓動が少し早くなった。





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