友達の失い方

友達の作り方ではない。
友達の失い方である。

大学生時代のことである。
それは何気ない友達申請からスタートした。
小学校時代の友人が6年ぶりに声をかけてきたのであった。

俺は小学校を卒業すると、地元から離れた中学校へ進学してしまったこともあり、地元とのつながりがかなり希薄になっていた。
彼女を含めて小学校時代のほとんどの友人とは、疎遠になり、お互い何をしているのかも分からない状態になっていた。

小学生は、高学年になるにつれ、「男子」と「女子」という区分けを意識するようになり、お互いが話すのもなんだか気恥ずかしいというような風潮が出てくるようなものだが、俺は彼女とはとても自然に接することができていた。

彼女は知的であった。
学校の勉強は何でもできるタイプで、それに加えていろいろな分野に自分なりのこだわりを持っているようであった。

何気なく友人の友人のつながりから俺をSNSで発見した彼女は、懐かしくて思わずメッセージをしてきたとのことだった。
俺のことを覚えてくれていて、そんな風にメッセージをしてきてくれたことが嬉しく、俺もメッセージを返した。

初めはたわいもない、思い出話や地元の噂話を続けていた。
2か月ほどメッセージが続いただろうか、お互い成人を迎えたこともあり、飲みに行くことになった。

久しぶりに会う彼女はやはり知的であった。
大学で人文学を学んでいるという彼女は、世界を鋭い視点で眺めていた。
話は尽きず、気が付くと深夜になっていた。

その後も、連日のようにメッセージのやり取りが続いた。
気が付くと、お互いの身の上話や悩み、愚痴などを吐き出しあうようになっていた。
まるで何でも話し合える友人のようだった。
ただ一つの点を除いて。

俺は、彼女に俺がゲイであることを言えずにいた。

俺たちは何でも話し合っているようで、明らかに一つの議題を避けていた。それはお互いの恋愛事情である。

俺が彼女の恋愛事情について詮索すれば、逆に俺の恋愛事情について質問されてしまうのではないか、と思っていた。
ゲイであることを隠したいと思っていたわけではない。
しかし、当時の自分はゲイであることをオープンに話せるほど自分の中でゲイとしての自我が固まっていたとも言えなかった。

気が付くと、メッセージの頻度は上がっていた。そして、月に1回は飲みに行くようになっていた。

彼女はもしかしたら…そんな思いに気づき始めていた。

そんなこんなで一年以上が経過していた。
思い返してもお互いマメである。
いまだに何でも話せる関係のようで恋愛だけについては話してこなかった。

夜も深まって酔いが回ってきていたのだろうか、彼女が尋ねる
「ねえ、気になってたんだけど彼女はいるの?」

「あ、いや…」

「私、好きかもしれない」

……。

ついにその時が来てしまったと思った。
頭が真っ白になった。
俺は情けなくもその場で何も返答することができなかった。

「外に出よう。」
店の中では話せないと思い、俺は彼女とすぐに外に出ることにした。

二人で真夜中の公園を歩く。
気まずい沈黙が流れる。
俺は覚悟を決めた。

「俺はゲイなんだ。」

彼女は困ったような顔をしながら笑みを浮かべていた。

「好きじゃないなら、変な言い訳しないでよ。」

「本当なんだ。」

ふたたび沈黙が流れた。

俺は彼女の思いにうすうす気づいていたこと、ゲイである俺に彼女が気持ちを持ち始めていたことは分かっていながらも敢えて何も気づいていないふりをしていたこと、友人として大切に思っていたこと、をありのまま伝えた。

知的な彼女は、すぐに話を理解してくれた。
しかし、論理の世界と感情の世界は全くの別物である。

酔いもあっただろうか、彼女は涙を流し始めた。

俺は俺で何ができるわけでもなく、ただ黙っていた。
気が付くと夜も明けそうな時間になっていた。
双方ともに気持ち的にも体力的にも限界だったため、その日は帰宅の途についた。

気まずさ、は残り続けた。
あんな夜を過ごしてしまった後、どう話を切り出せばよいか、お互いに迷っていた。

気が付くとあれほど毎日のように行っていたメッセージもなくなっていた。

未だに考えるのである。
俺は卑怯だったのだろうか。
自分に気があることに気づいていながら、その状況を利用して彼女を都合の良い話し相手として利用していたのだろうか。

カミングアウトとは一筋縄ではいかないものである。

俺はこうして友達を失った。

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