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【試し読み6】実家住みも偉い!(『うつには祖母がよく効きます』より)

こちらのエッセイは、こうの みさと著『うつには祖母がよく効きます』に収録されています。

実家住みも偉い!


  大学入学を機に一人暮らしをはじめて、家族と物理的に距離があいたため、関係が「良好になった」と感じていました。いろんな煩わしさから逃れることができて、お互いに気をつかわなくてよくなったから、好転したと思っていたんです。

 でも、帰ってみたら、問題はそのままにして離れていただけだったので、いろんな問題が噴出。うつになって帰ってこなければ見えなかったもの、解決し得なかったものは多いです。

 十分自立できる年齢なので、もう親や祖母とは暮さずに、このまま人生を終えても不思議ではなかったはず。

 うつというきっかけが、結果的に家族と深く向き合うよう、引き合わせてくれたのかもしれません。

 私は「実家住みも偉い」と思っているんです。

 それは、一人暮らしよりも偉いということでは決してなくて、生活を営めている時点で、みんな偉いということ。

 一人暮らしには、

・経済的な負担

・家事を全部自分一人でやらなければいけない負担

 などの苦労があります。じゃあ、それらが無い(もしくは少ない)実家住みは楽かというと、そうでもない。むしろ、違う種類の苦労があるわけです。

・世代がちがう家族の価値観を受け入れなくてはいけない

・自分の時間が減る

・むしろ家事をしないと白い目で見られる

 実家で「円満に」暮らすためには、家族の調子や気分の影響を受けないように、うまく流したり、受けとめたりするそれ相当の努力が必要になるのですが、そこはあまり語られない。

 わが家の場合も、多い時で大人6人が同じ屋根の下で過ごすわけですから、まるでシェアハウス。祖母も含めてみんなそれぞれに一人暮らしの経験があり、苦労して家事のやり方や時間の過ごし方などを体得しているのに、家族が集まったら、自分のやり方を捨てて、その場の雰囲気に合わせなくてはいけない。それも、24時間。これは結構しんどいですよ。

 世代がちがうと、信じている情報は全然ちがう。育った環境もちがう。笑いやハラスメントに対する感覚もちがう。でも、それに毎回目くじらを立てていたら話が進まないんですよね。祖母くらい感覚がちがうと、漫画のネタにして笑いにもできるのですが、両親の世代とのちがいは、結構ストレスになることもあります。

 そこに必要なのが、グレーゾーンを作ること。あえてふれずに、何となく聞き流すこと。

 どうしても許せない言動があれば指摘しますが、そうでもないことは聞かなかったことにします。こうした「配慮」が、実家住みには必要になってきます。

 「実家に戻る」というと、何か後ろめたい理由がある場合が多く、世間的にも「自立していない」と思われることが多いかもしれません。

 でも、意外にも高度なコミュニケーション能力を必要とする生き方なのです。実家暮らしのみなさん、誇りを持ちましょう! 

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