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拝啓、飲み会が嫌いな女

飲み会の良さが未だに分からない。

「興味のない飲み会でもとりあえず参加したら結果的に楽しくなる」「参加するつもりの無かった飲み会で、今の旦那と出会いました!」「やっぱり誰かとバカな話をしている時が一番人生ってかんじするよね」
Googleで「飲み会 参加 したくない」とかで検索すると、大体こんな感じのことを要約した薄っぺらい内容の記事がたくさん出てくる。まるで国が一丸となって飲み会に参加させようとしているのではないかと疑うほどだ。
会社の付き合いでの飲み会、他社の同期との飲み会、同窓会での飲み会、そういうイベントは少なからず毎年やってくるわけで、その度に前日の夜にこうやって調べて「飲み会には参加するな」と甘い言葉を吐いてくれる記事を探す無駄なあがきをするのだけれど、出てくる答えは結局毎回同じで、要約すると「とりあえず参加しろ」の一言だ。
で、じゃあとりあえず参加してみますよ、もしかしたら思いがけない出会いもあるかもしれないんでしょ、と、卵の薄皮より薄い期待も抱きつつ現場へ向かうと、家に帰る道を一人歩いているころには、楽しいどころかむしろ何か大切なものを吸収された、カラカラの乾燥シイタケみたいな気持ちになっている。これを毎回、繰り返している。
家に帰ってシャワーを浴びながら繰り広げられる一人反省会。ちゃんと笑えていただろうか、あの時の一言は場を白けさせていないだろうか、私の声は通りにくいから気を使わせてしまっていたかもしれない、注文する酒のセンス、会話のネタ、反応、服装、匂い、そもそも私は参加しないほうが良かったのではないか。男性達は私の同期の顔をすごく褒めてた。隣に座る同期が「かわいい」と連呼される横で、私はほほえみながら、みんなから集まってくる注文をひたすらタブレットに打ち込む。いつしか私が注文係になる流れが自然とできあがっていて、店員を呼ぶのではなくみんなが私を呼ぶ流れになる。とりあえず、注文係としての役割は果たせたようだ。でも、なんか、多分一般的にみんなが思っている「飲み会の楽しさ」は味わえていないんだろうな、という違和感が、なかなか流れない排水溝のゴミみたいに、心の隅に引っかかっている。これを押し流すみたいにレモンサワーをぐいっと喉の奥に流し込む。
逃げるようにトイレに駆け込む。鏡に映る自分の顔は、やけに眩しい洗面台のライトに当てられて、赤黒く濁った色をしていた。それに反比例するように、リップの色が落ちた唇は真っ青だ。まぶたもむくんでいる。こうなるとアイプチの持ちが悪くなるからやめて欲しいんだよな。急いで、携帯していたアイプチの液を追加でまぶたの上に塗り、リップを塗り直す。トイレから出ると、ほろ酔いでいい感じのチークを塗ったみたいになったかわいい同期と目が合った。その瞬間、なんか、もう、殺してほしいとさえ思った。同時に、殺してやるとも思った。奥歯を噛んで、口角を上げる。
「次、何飲む?」「じゃあ、ハイボールで。」


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