寄せ書き

上手で川村と佐伯が、下手で藤岡(女性)が机に向かいパソコンで作業してる。皆20代である。 上手から石川(40代)が来て、川村の横につく。
石川「川村」
川村「はい」
石川「これ(もってる寄せ書きの紙示す)、今度有岡さん辞めるから」
川村「え」
石川「これ書いて」
川村「いや、無理です」
石川「無理ってどういうこと」
川村「寄せ書きとか、きついです」
石川「別にそんな大したこと書かなくていいから」
川村「いや、でも、俺」
石川「じゃあ渡しとくから、書いたらさ、みんなに渡してくれる」
川村「やめてください」
石川「え、なんでそんな」
川村「もうパワハラですよ」
佐伯「(立ち上がり)どうしました?」
石川「いや、わかんないんだけど」
川村「俺に寄せ書き書けって言うんだよ」
佐伯「ええ?」
石川「え?」
佐伯「それパワハラですよ」
石川「どこが」
佐伯「石川さん上司ですよね」
石川「まあね」
佐伯「その力関係で、川村に無理なことやらせてるじゃないですか」
石川「いやいや、ちょちょっと書けばいいでしょ」川村「いやだって僕、サイコパスじゃないですか」石川「は?」
佐伯「サイコパスで、情とか人間味ないじゃないですか。それなのに寄せ書きなんて」
石川「怒ったほうがいいんじゃない」
川村「なんでですか」
石川「だって人間味ないって」
川村「ない人は生きてちゃいけないんですか。多様性の時代に」
石川「多様性ってそういうのも含むの」
佐伯「うわ」
川村「差別主義者かよ」
石川「違う違う、そんな俺アウトなこと言った」
佐伯「自覚ないんだ」
石川「わかんないんだけど、ちゃんと教えてくれる?」
川村「だから、お世話になっても何も感じないのに寄せ書き書かすのパワハラでしょ」
石川「そんな堂々と。じゃあいいわ、川村はうん、いいよ書かなくて」
川村「まじか」
石川「いいでしょ、書きたくないなら、強制はしてないし」
佐伯「だから、書いてって言った時点で暴力ですし」
石川「だってわかんなかったんだもん」
佐伯「それを信じろっていうのは無理ですよ」
石川「信じるもなにも、みんな知らないよ、サイコパスだって」
藤岡「(立ち上がり)みんな、知ってますよ」
石川「ええ?」
川村「名前なんだっけ」
藤岡「藤岡です」
川村「へー」
石川「へーって」
藤岡「川村さん、サイコパスですよ。人間味ないですよ。でも、だからこそバレンタインのチョコやめさせてくれたんです」
石川「どういうこと? いつのまにかなくなってたけど」
藤岡「川村さんから女性社員に一斉メールで、もらっても負担だし、あげるのも負担でいいことないからやめようって言ってくれたんです」
佐伯「みんな思ってても、角が立つというか、そういうのあるじゃないですか」
石川「まあまあね、自分はもらってうれしいけど」
石川以外、あきれてため息。
石川「なに? うれしい人もほら、多様性でいいでしょ」
藤岡「とにかく、サイコパスの川村さんに感謝してるんです、それなのに寄せ書きなんか」
石川「わかったわかった。俺が川村の性格? 人格を把握してなかったのが悪い。ごめんなさい」
川村「軽いな~、軽い」
石川「え?」
川村「パ・ワ・ハ・ラ、ですよ」
石川「人間味ないのに?」
川村「傷ついてないけど、純粋に不快です」
石川「ごめんごめんごめん、もうどうしたらいい」有岡「なにを騒いでるの、え?(石川の寄せ書き見て)」
石川「いや(隠す)」
川村「これ有岡さんのです」
石川「言うなよまだ」
有岡「ごみ増やすなよ!」
石川「え?」
佐伯「有岡さん、環境問題にものすごく熱心なんですよ」
有岡「わたしより地球に感謝でしょ。ちょっとレクチャーするから来て」
石川「すいません、悪気はなくて(有岡とともに下手にはける)」
佐伯「石川さん、同僚のこと知らなすぎでしょ」
川村「あー、助かったよ2人のおかげで」
藤岡「いやー、こちらこそ川村さんにお礼をしたかったので」
佐伯「せっかくなんで今日飲みに行きませんか?」藤岡「いいですね、行きましょう」
川村「俺同僚と飲むのとかわかんないんで失礼します(上手にはける)」
                                (了)

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