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『共に明るい』井戸川射子
5つの短編が収録されています。
新神戸駅発の路線バスの車内で、見知らぬ女が自分と息子との身の上話を、誰へともなく語り続ける表題作「共に明るい」。
公園で読書する少年と、赤ちゃんを産んで疲れたと言う女性との、他愛のない会話から、両者の日頃が浮かび上がる「野鳥園」。
付き合っている同僚の保育士の男が、レオバなる爬虫類の繁殖でひと稼ぎを目論つつ、実は同僚女性のほぼ全員と関係を持っていたことを知る「素晴らしく幸福で豊かな」。
五島列島・福江島にやってきた修学旅行生と教師たちが、暴風による船便の欠航により宿に留まらざるを得ない中で過ごすそれぞれの時間の「風雨」。
雑談しながら電気部品検査に勤しむパート社員たちが、たまたま起こった弱い地震を契機に、かつての大震災の記憶を呼び覚ます「池の中の」。
良く言えば詩的で神秘的な、悪く言えば読みづらく難解な、独特の文体です。何れの小品も、身近な風景を舞台にした物語なのですが、それを単純に描写してはいません。唐突に目まぐるしく一人称が交代したり、改行なしの一つの段落が異様なまでに長かったり、直截的などぎつい表現を容赦なく使ったり、等々。かなり癖のある文章であるにも関わらず、奇妙な格調高さがあるのが不思議です。
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