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分業の利益とライン生産方式について

こんにちは新コロ問題でなかなか大変ですが、3月分のnoteもなんとか3月34日に間に合いました。危ない危ない。
税理士法人アーリークロスでは、生産性の向上や今後の組織拡大に向けて、いわゆる製版分離体制や社内での分業体制を強化しています。そのあたりの基本的な発想は以前のノートにも書いたところです。

今回確定申告の業務フローを大幅に分業スタイルに変えたのですが、弊社内でも一部から反発や戸惑いの声があると聞いています。ただ、僕の判断としては、この分業化・非属人化の方向性でいくしかないと考えています(もちろん改善の余地は多数あると思っていますし、それが原因で苦労をかけ、反発を生んでいる可能性もあるので、その点は真摯に改善していかなければいけないと考えています)。このあたりの考えにある背景をより深堀りして説明しておきたいと思います。

(宣伝)このあたりの考えにご賛同いただけるかたは是非弊社へのご転職をご検討ください!

分業の利益と比較優位について

まず理屈っぽい話にはなりますが、分業のメリット(利益)について改めて解説します。分業という言葉の意味は、仕事を手分けして行うことです。しかし、これは本質ではありません。分業の利益というのは、「それぞれの得意なことに特化すると全体の利益が増える」ということにつきます。「それぞれの得意なこと」というのは、絶対的に他者と比べて得意なことではなく、比較的得意なことでいいというのがミソです。経済学の用語でいうところの、比較優位というやつです。

例えば、会計事務所歴10年でなんでも高速で正確にできるAさんと未経験で入社したばかりのBさんがいたとします。例えば単価1万円の記帳代行をAさんの方がBさんの3倍の速度でできたとします。しかし、Aさんは経験豊富なので単価10万円の財務コンサルもできます。分かりやすくするため、もしBさんがやろうと思うと100倍の時間がかかるとします。この状態をAさんの絶対優位といいます。Aさんは、記帳代行をBさんの3倍の速度できますし、財務コンサルも100倍の速度できます。ただ、裏を返せば、Bさんが財務コンサルをやるとAさんの100倍も時間がかかりますが、記帳代行なら3倍の時間しかかからずにでできるのです。Bさんは記帳代行に比較優位があるということになります。

Aさんがやっていた記帳代行業務をBさんに譲り、財務コンサルをすることにより10万円の収益を獲得することができるのです。Aさんが記帳代行をやめることには1万円の機会損失が発生しますが、得られる財務コンサルの収益が10万あるのでこちらを選択すべきなのです。

経験ある方が「自分がやったほうが早い」ので、後輩や部下へ仕事を振らないということがないでしょうか?気持ち的にはわかりますが、比較優位の考えでいくと、「たとえ時間がかかっても」仕事を分業すべきなのです。

ライン生産方式かセル生産方式か

分業化を進めるにあたってありえそうな批判として、「ライン生産方式は古くないですか、セル生産方式がトレンドじゃないんですか」というところです。これについても説明したいと思います。まずは定義から。

ライン生産方式とは、イメージでいうと自動車工場のような流れ作業で、工程を複数に分け、それぞれの人がそれぞれの工程に特化して行う方式です。会計事務所で言うと、例えば、資料回収・整理、データ入力、仕訳、決算、点検をそれぞれ別の人で行うようなイメージです。当社はこちらが会計事務所には必要だと思っています。

一方のセル生産方式は、全ての工程を1人の人(または少数の人)で行う方式になります。1人の担当者が原則としてなんでもやるスタイルです。昔ながらの事務所ではこういったスタイルが多かったのではないでしょうか。これが成立するためには、「将来税理士になるために修行するぞ」という若者が容易に採用できることが必要になりますが、それが現状難しくなってきて、機能しなくなっているのではないかと推測します(詳しくは後述します)。

ライン生産方式の特徴

ライン生産方式の特徴は、少品種大量生産に適していることと言われています。工程を細かく分けて担当することにより、全体の技術に精通しなくても、自分の担当する工程だけできるようになれば短期間で戦力になります
例えば、確定申告について全体を理解しようと思えば、相当な時間を要することになると思いますが、医療費控除だけなら数時間学べば相当な力量になります。よっぽどレアな論点でなければ1人でできるようになるでしょう。
先程の比較優位の例のように、経験の浅い人は経験が少なくてもできる業務に、経験が長い人は熟練のいる点検や相談等に特化することにより、全体の生産性を上げることができます。

(担当エリアによりますが)経験が浅くても戦力になること、及び、経験のある人が経験の必要な業務に特化できることがメリットだと考えています。

デメリットとしては、一般的に、作業がシンプルになり飽きるということや、全体が見えるようにならないということが言われています。しかし、飽きるということについては、次のステップに進んでいくことやローテーションにより回避することができると思います。全体が見えないということについても、全体を見える人が誰もいなくなるのは困りますが、業務設計する人、点検する人、納品する人がしっかり理解できていれば十分ではないでしょうか。会計事務所の全体像を本当に理解しようと思うと結構な時間がかかると思います。やりがいを感じるために個別の業務の意義を知ってもらうことは価値があると思いますが、一人ひとりが全体を理解して、全体への影響を考えながら業務するというのを期待するのは現実的ではありません。

会計事務所での業務についても(もちろん例外的な業務もたくさんありますが)主たる業務が中小企業の記帳代行業務、決算、申告ということを考えると、少品種大量生産という形態と言えると思います(例えば、法人の申告の殆どは中小企業者で同族会社ですし、確定申告もいくつかのパターンがほとんどです)。そのため、このライン生産方式が向いているのではないかと考えています。

とりわけ当社のように年間100件以上のお客様が増加し、従業員数も倍近くになっている場合には、このライン生産方式の考え方を取り入れていくしかないと考えています。なお、イレギュラーな業務や特殊な業務については、後述のセル生産方式的思想で対応しています。

セル生産方式の特徴

製造業の世界において、産業革命の時代には少品種大量生産がメインでした。その後製品のライフサイクルが早くなったり、消費者のニーズが多様になったりしたことにより、多品種少量生産が求められるようになってきました。ライン生産方式は、製造する製品が変わらなければ強いのですが、頻繁に製造ラインが変わる場合にはスイッチコストが高く向いていません。そこで、製造業の世界では、90年代以降このセル生産方式の導入がトピックになることが多かったのです。1人の人が製品を全てを組み立てていれば、個別の仕様の変更や、違う製品への対応がスムーズにできるのです。

しかし、当社のメインサービスは少品種大量生産となりますし、業務の流れが大きく変わることはいまのところないのでライン生産方式が向いていると考えています。製造業の場合とは、状況が異なります。前に書いた通りむしろ産業革命前レベルですし。

また、このセル生産方式は大きなデメリットが存在します。wikiの記述がまとまっているので引用します

これを実現するには「作業者が高いスキルレベルを有した集団である」という大前提がある。この前提がない場合、生産量と質が作業者のスキルに依存するため、作業者間での生産量の差が極端に大きくなったり、1人が見るエリアが広くなることにより製品の細かい不具合や対応漏れなどがむしろ発生しやすくなる恐れも出てくる。そのため、作業者の新人研修などは通常よりも長く設定する必要がある。また、1人作業者セルの場合、作業ノウハウの作業者間での水平展開は作業時間中にはあまり期待できず、別途時間を設けるなどの工夫も必要である。更に、工員のスキル向上に投資することから、作業内容やその教育の標準化が困難な場合は工員の長期雇用が前提となる。

現在の会計事務所をとりまく採用環境を考えると、Big4並のブランド力があっても、「作業者が高いスキルレベルを有した集団」にあたる人を継続的に採用することは難しくなってきています(入社の資格要件が年々下がっていると聞きます)。まして地方の一事務所には期待できないことです。さらに一般税務がメインで、規模の拡大を目指している当社にとっては、経験が浅い人も戦力にしながら成果を出していくことが求められます。そのため、この方式は採用できないと考えています(一部の特殊業務は別です)。少人数で特殊業務に特化し、収益性高く業務をやっていくぞという組織には向いていると思います。

会計事務所の採用環境について

会計事務所の採用環境は年々厳しくなっています。上記に関連して、ここもおさらいしておきたいと思います。

1.税理士受験生が絶望的に減っている

悲しいことに、笑えるくらいに人気がないです。2009年に62,830人いた税理士受験生は、2019年には36,701名にへと10年間で41%も減少しています!!。10年間で平均年約2,600人づつ減少しておりますので、あと15年で絶滅する計算になります!(笑。

更に恐るべき事実として、2019年の受験者の38%が40代以上、72%が30代以上になっております。若い受験生が全然増えておりません。2015年の30代以上比率が68%だったことを踏まえると、年々高齢化(=新規参入が少ない)しているものと考えられます。

一昔まえであれば、「将来税理士を目指す若者に俺の背中を見せて鍛えよう。修行のためなら多少のことは我慢するやろ。ワシもそうやったからな。」という戦略もとれたと思うのですが、税理士目指す20代というだけで希少な存在となりつつあります。当社で活躍してくれている20代の受験生や有資格者は超希少な存在です。昨年度の25歳以下の税理士受験生は、3,706名と絶滅危惧種であるクロサイ(約5,000頭)よりも少なくなっております。

試験制度にも問題があると思いますが、なにより若い人に魅力的な業界にうつっていないのだろうと思います。この点はまずは当社からでもなんとか改善していきたいです。そのためには生産性あげて給料あげてくのが第一歩だと思っています。

2.そもそも若い人の数が減りまくってる

人口動態

上記の出生数のグラフをご覧ください。第二次ベービーブーム世代には、一学年あたり200万人前後の人がいました。例えば、ピークの1973年(今46-47歳)には210万人生まれておりました。しかし、今年大卒で入社する1997年生まれ(22-23歳)は、120万人しかおりません。さらにどんどん減少しており、2019年には86万人と急減しております。日本中に魅力的な企業がある中で、採用競争は日に日に激化しております。

3年で3割辞めると言われますが、転職市場も当然活況となり、若者もどんどん転職をするようになっております。長期雇用を前提に若い子をじっくり育ててというのはやらなければいけませんが、それを主軸に組んで行くのは危険だと思っています。家庭の事情等で短期間や短時間しか働けない方や未経験の中途採用等を活かしながら成長戦略を組まなければいけないと思っています。

3.労働意識の変化、働き方改革、少子高齢化、ライフシフト

ワークライフバランスという言葉が叫ばれて久しいですが、プライベートを大事にしながら仕事をするという考えが広まっています。働き方改革でそもそも残業も大幅に制限されるようになりました。私や社員税理士の小山は仕事大好き人間で、時間と体力が許すならひたすら仕事をしてたいタイプなのですが、これをみんなに求めるのは難しいなと感じています(役員なので労働時間という概念がないのもありますが)。もちろんこの仕事をしている以上、業務中だろうと業務外だろうと最新の税法をおいかけ、専門書を読み、勉強し続けるというのが理想ではあります。
ただ、本人の意識や志向だけでなく、家庭の事情(介護や子育て、病気等)でそういうことが難しい方もたくさんいらっしゃいます。そういう多様なニーズにも応えられるように、業務を細分化し、その人が活躍できるポジションについてもらうというのが必要だろうなと思っています。

また、ライフ・シフトという書籍が話題になりましたが、人生100年時代に、今までと違う考え方でキャリアを考えないといけないという考えも広まっています。我々の業界も対応していかなければなりません。

まとめと今後の改善点

採用環境が変化し、将来税理士資格を取るという志を持ち、ほっといても自己研鑽に励み、ハードワークを厭わず長期間頑張る若者を大量に採用することはできません(少人数ですがいるので、見つけたら積極的に採用して、難しい業務をゴリゴリやってもらいます。)。そこで、多様な人材を受け入れて活躍してもらう必要があります。そうなった際に、短期で戦力となってもらうためには、業務を細分化し、そこの部分だけでもまずできるようになってもらうことが必要だということです。その方が本人の達成感にもつながると思います。自信のない若者が多いので、まずはスモールサクセスを積んでもらいたいなと感じています。いきなり色々頼み過ぎてパニックになって辞めていくひとも過去にはおりました(反省)。まずは簡単な業務から始めてもらい、そこで経験を積む中で税務や会計の仕事のおもしろさに目覚め、税理士資格やさらなる業務に挑みたいなと思ってくれる人が出てくるのを待つといスタイルを広めていかないといけないのかなと思っています。

改善点としては、ルールに不明確な部分があったり、役割が不明確な箇所があったりしたことかなと思っています。そこのあたりの気持ち悪さが、仕組みへの反発になったのではないかと感じています。より使い勝手のいい仕組みにするように、事前の説明の時間を作ったり、使いにくい点を拾ったりして改善をすすめていきたいと思っています。

長くなりましたがどこよりも生産性高く、大量に、月次を締め、決算をし、申告をできる組織づくりを引き続き目指していきたいと思います。

おまけ

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