うどん屋やってます。ある日突然「ギラン・バレー症候群」になりました。
2022年9月、ある日「ギラン・バレー症候群」という神経難病になりました。日本での発症率は、人口10万人あたり年間1~2人ほどらしいです。
この病気によりお店は休業しています。うちは毎週のように来てくださる常連さんが多いお店なので、うどんを作れないことと同じくらい皆さまにお会いできない現実が心にぽっかり穴を開けています。完全にお客さんロス。予約をお断りしたお客さまにも申し訳ない限りです。
ギラン・バレー症候群とは、ウイルスや細菌による感染などをきっかけとして、本来は自分を守るためにある免疫システムが異常になり、自己の末梢神経を障害してしまうのだそうです。
個人差はありますが、主な症状はこんな感じ。
足から始まり手、肺、顔といった上方に向かって症状が出て、重度だと嚥下障害や呼吸困難、最悪の場合は死亡事例もあるらしいです。私の場合は両手足に脱力、痺れ、痛みが現れ一時は車いす移動になったものの、発症から2年3年経っても立ち上がれないという方がいるなかでは軽度で治まりました。
現在、10日間の入院を経て自宅生活1ヵ月半が過ぎたところですが、「退院=快癒! おめでとさん!」の方程式があてはまらないのがこの病気のつらいところ。今も手足の痺れや断続的な痛み、脱力、不自然な指の動き(たとえば、拳を握ろうとするとネジ巻き人形のようにカクカクしてしまう)などが続いており、あらゆる面で夫と両親、友人に助けられてます。時間だけはあるのでいつにもましてうどんやラーメンを食べに行ってますが、運び屋(夫)なしでは絶対無理。よく「食べ歩きできるまで回復したんですね!」と言われるんですが、えっとー下半身死んでるんですが内臓は元気なもんだから、まあ肥えて肥えて困っちゃう。街中のたった1段の段差や傾斜にもよいしょーっとか言ってるくらいで、階段はもう1ヵ月半上ってません。電車も挟まれそうなので自粛中です。
病院としては「いきなり呼吸困難に陥るような危険はなさそうだね、うん。退院してよし!」ということで退院させてくれるんですが、そもそもこの病気によって壊れた神経を治す治療はまだないらしく、正直、あとは己の治癒力と運を信じたまえなところがあるようです。私も退院後の再診で医師から「今後徐々に治るかもしれないし、治らないかもしれない」と言われたときはなんともいえない気持ちでした。
かさぶたがポロッと剥がれるノリで、昨日より今日、今日より明日! 乗ってこ乗ってこーという調子で治れたらいいんですけどね。
じつは私も退院当初、これから徐々に右肩上がりに回復していくっしょ! と思っていて、徒歩圏内のお店で祝い酒をしたり、リハビリもかねて近くの公園に行ったりしたものの、結局、1進んだら2戻る状態で症状が悪化してしまうんですよね。右肩上がりとはいかず、揺らぐ。揺らぎまくる。日常生活どころではないので、生業のうどん屋も休業したままです。ああお客さんに会いたい。
また、体験記の数が豊富とはいえないのもこのnoteを書く理由になっています。「患者さんが100人いれば、100通りの闘病生活がある」といわれるくらいで、人と一緒ならあーんしんってことでもないのだけれど、それでも今後日常に戻れるのか、日によってお店で15時間立ちっぱなしのあの生活に戻れるのか、もしかしてそういう意味(お店を畳まないといけないのかとか)の腹を決めないといけないのか……? と不安が拭い切れませんが、そんな自分自身の今後とも向き合いつつ、これからも年間10万人のうち1人か2人はこの病気と闘わなきゃいけない人がいるわけで、そんな誰かに読んでもらえればいいかなーと書き記すことにした次第です。さーっと振り返るだけだけどね。スマホに症状メモっといてよかった。
発症から、即入院
発症1日目
早朝。ちょっとしたふくらはぎの痺れから始まり、歩くとフワフワしたような感覚で、文字どおり地に足がついていない感じ。ああこれ……二日酔いだ。だって昨日の夜、めちゃめちゃ楽しく飲んだもん。うん、ただの二日酔い。
と思っていたら……数時間後には痺れが激痛に変わり、歩くたびにふくらはぎが裂けそうになっていました。変だなー変だなーと思いながらもヨタヨタ移動し(旅行中でした)、随所随所でしっかりお酒を飲みつつ日中を過ごしたものの、夜には手にも異常発生。なんていうんでしょう、長い拍手をするとちょっと手が腫れ上がるようなピリピリ感。あの感覚に手のひら全体が包まれていました。ほかにも、ホテルに置いてある小指サイズの歯磨き粉のフタが開けられない、おしぼりの袋が開けられない、ゴムの反発に負けてしまい髪の毛が結べない、物を掴んでは落とすなど、特に指先を使う動作ができなくなっていました。なんといっても、お昼にうどんを食べようとしたときに麺を引き出す力が出なかったのにはびっくりしました。
加えて、足首の可動域が異常に狭くなり、靴や靴下の脱ぎ履きはおろか寝るにしても足首に布団が被さるだけで無理やり骨折させられそうなくらい痛い。ラクな姿勢がまったくないため夜中じゅう唸っていましたが、それでも「明日起きたら治ってるといいな」なんてどこか呑気に、希望も込めて思っていました。
発症2日目
朝、目覚めた瞬間から足がしびれて力が入らない。夫~、靴下履かせてくれ~。前日からのふくらはぎのほかにスネの激痛も加わり、歩き方はより無様に、まるで瀕死の老ペンギンでした。握力もさらに低下し、拳が握れない、ピースできない、箸の扱いがおぼつかない……。これはただごとじゃないのかも。東京に戻る際、空港で車いすのお世話になってしまいました。
夜、症状を調べようとパソコンを開いてまたびっくり。指が動きません。意識したことなかったけれど、キーボード操作って指と指の間を広げたり狭めたり、指をクロスさせたりと複雑な動きをしてたんだなぁ。
深夜、症状がさらに悪化して救急車で運ばれたのですが、検査できる環境ではなかったり、神経系の症状を診れる医師がいなかったりと、そこでは診断がつけられないということで紹介状を手によろよろ帰宅。
発症3日目(入院開始)
翌日、脳神経内科がある大きな病院へ行くと、診察の時点でギラン・バレー症候群の疑いがあると告げられ、そのまま入院することになりました。この時点で自力歩行がままならないため、車いす生活の始まりです。即入院ってほんと着の身着のまま病室に連れていかれちゃうんですね(しかもコロナの関係で以後は一切面会謝絶)。前日お風呂に入れなかったがためにベッタベタな足裏を代わる代わる先生方にナマ手で検査させてしまったあの記憶が蘇ってきます……。
そもそもギラン・バレー症候群の原因ははっきりしていないものの、約3分の2の患者さんに発症1~3週間前に風邪をひいたり下痢をしたりといった感染症の症状があるそうです。有名なものには鶏肉の生食によるカンピロバクター食中毒があります。いずれにせよ、今回自分の身にそういうことは一切起きていませんでした。
じゃあなぜ? と先生方と問診を重ねた結果、発症1週間前に接種したコロナワクチンの可能性も否定できないとされ(※)、認められれば医療費が免除される国宛の書類にそう記述していただけました。
(※)私はこういうことがあったので今後インフルを含めワクチン接種に対して人一倍慎重にならなければならないのだけど、ワクチンそのものの是非を問うものではないことは前提にしていただければ。
入院|初期
入院してまず、免疫機能の調子を取り戻すのに有効とされる免疫グロブリンという点滴を5日間(1日8時間くらいだったかな)打つことになりました。医師によると、即効性というより1ヵ月くらいかけてゆるゆると効果を期待するものらしいです。
また、確定診断のためにさまざまな検査をしました。私の場合は血液検査、髄液検査、筋電図検査の3種類。
●血液検査→もともと献血大好き民なので問題なし。
●髄液検査→背中を丸めて寝た状態で腰の深いところに針を刺して髄液を採取するもの。背ワタ取られそうで取られない海老の気持ち。針が刺さったまま30分静止しているのがなかなか気持ち悪い。ごはんのこと考えながら乗り切りました。
●筋電図検査→筋繊維の電気活動を調べるために、足にブワッチン!ブワッチン!と強烈な電気を流し続けるんですが、スタンガンってこんな感じなのかな。 先生も「ごめんね~痛いよね~」と言ってくれるんですが、「ゆうても先生はやったことないですよねぇぇぇ!!!?(偏見)」と思いながら今季一番泣きました。もうやりたくない。
上記を経て、後日ギラン・バレー症候群の「疑い」から「確定診断」を受けるわけですが(来たか~と落ち込むものの、逆に病名が分からないのも怖い)、入院初期の身の回り/症状は、主にこんな感じ。
●トイレ→自力歩行できないので車イスで介助
●歯磨き→腕を上げたままにしているのがつらいので、左手で右ひじを支える謎ポーズで乗り切った
●食事→箸が持てないのでプラスチックスプーンを5本指で掴む赤ちゃん食い。この頃の握力は3。30代女性の平均から見ると10分の1程度。
●新規症状①→常に粗目のやすりで太ももをこすられている感覚。振り返ると「痛み」という点では、これが一番きつかった
●新規症状②→今まで脱力としびれだけだった手や指、臀部にも電流系の痛み
新規症状①②を聞いた医師からは、長時間寝ていることによる坐骨神経痛の可能性もあると疼痛治療薬の一つであるタリージェという錠剤を処方されました。でもあんま効かなかった。
入院|中後期
このころのメモを見ると「足首と膝に力が入らん。ガクンとなる」とありますが、「踏ん張れ!踏ん張るんだ自分nnnー!」と気合いを入れても、膝のお皿が家出状態でくにゃくにゃガックン。すっかり軟体動物の気分でした。
しかし、いい変化もなかったわけではありません。足首が少し動かせるようになり、手すりにしがみつきながら自力歩行でトイレに行けるようになりました。病室から1分もかからない場所ながら体感10分以上かかっていた気がします。食事も退院直前にはお箸でなんとかできるように。誰も見てないのをいいことに五本指の赤ちゃん持ちでしたが。また、頭も身体もベタベタで限界だったのでシャワーにも挑戦。いつも通りに髪を洗えたわけではないけれど、こんな少しのことで気持ちが晴れるもんです。
トイレよし! 食事よし! シャワーよし! ときて、その日からみるみるよくなって……! とは残念ながらいかなったのですが、どうやら悪戦苦闘している間に私の症状はピークを迎えたようです。日本神経学会によると、ギラン・バレー症候群では「神経症状が出てから2週から4週で症状がピークになり、重症例では四肢麻痺が進んで歩行に介助を要し、10数%の患者さんは呼吸筋にも麻痺が及んで人工呼吸器を装着することが知られている」そうです。
このことから、私に関しては「今後悪化しないだろう」という医師の判断をもって、予定どおり10日間で退院できました。退院日の朝のメモには「起床時に左腕の外側がビリビリ痛い。右小指のピリピリ。足は変わらず脱力」とありますが、同じ寝ているだけなら自宅がいいもんね。
余談ですが、入院中、夫が大量の差し入れをこまめに看護師さんに預けてくれたり、無事歩けるようになりますようにと東京中の神社にお参りに行ってくれたり、愛猫の動画を頻繁に送ってくれたり、本当に支えられました。私自身も治ったらしたいこと(メニューの改良、試作、イベント企画など)を書き出すなど、絶対元の生活に戻るんだという意識で過ごしました。
退院、その後
さて、無事退院できたものの、むしろここから長いのがこの病気の特徴のようです。今も「あ、今日も手足が痺れてるな」と認識するところから朝が始まり、常に脱力感・断続的な痛み・不自然な指の動きが付きまとっています。
「神経の回復は1日1mm」とも聞きますし、焦っても得るものはないと分かってはいるのですが、「筋力も落ちているし、少しずつでも歩かないと」という気持ちもあって、今は3日に1回ほどの頻度で近隣の飲食店へ行ったり、夫の運転で普段なかなか行けない遠方のお店にお邪魔したりしていますが、やはりこの病気、どこまでいっても1進んで2下がるなんですねえ。人生ゲームでイカサマされてる気分です。
少し足を使うと寝込み、翌日は膝が使い物になりません。退院当初、「つま先立ちとしゃがみができるようになったらお店復活!」と身内には言っていたのですが……じつはつま先立ち、今もできないんですよねえ。また、先日は無理にしゃがんで毛細血管でも切れたのか、両膝に痣がくっきり出てしまったのでおしゃがみも自粛中です。ほんと、己の身体に翻弄されています。
私レベルでこうなら、数か月、1年と入院された方の退院後のご苦労は計り知れません。あ、そうだ。病気について調べてくださった方から「ほとんどの人が完治するそうです!」などコメントやメッセもいただき、それは励ましのお言葉としてとってもありがたいのですが、実際にかかった方のお話を見ていると、もちろん完治した方もいらっしゃるのですが、退院後1年2年経っていても痺れや痛み、疲労感と付き合ってなんとか生活している方も少なくないようでした。指定難病から外れちゃったし、みんな就業日数減らしてもらってでも生きるために働かなきゃいけないんだよね。本当の意味でのリアルガチ完治ってあるのかなぁ。
私のこれからですが、治るのをただ待つだけではなく、ギラン・バレー症候群の診療実績が多くてリハビリケアが充実している病院へ相談してみることにしました。というのも、最初にお世話になった病院では次回の再診が来年2月(現在11月)と決まっている以外、こちらの期待している今後の方針などは特になく、いざ自宅に戻ってみると分からないことだらけだったため。
たとえば、お風呂。自宅でのお風呂時間はこのうえない癒しになるものの、その後の疲れ方や痺れの度合いが激しく、はたしてこのまま続けていいのか? など、日常生活における疑問は尽きません。
お風呂に入っていいの? 痺れや痛みが強くなったとしても無理して歩いた方がいいの? お酒は控えた方がいいの? 筋トレはしていいの? まったく見当がつきません。下手にがんばりすぎたことで復帰が1週間、1ヶ月と遅れてしまうのがこわいです。
というわけで、新しい病院に日常生活はもちろん、少しでも早いお店の再開に向けていろいろ相談できることを期待しています。待ってくださってるお客さまにお会いできるように、できることはすべてやっていきたいと思います。皆さんと早く笑えるようにがんばりますので、もうしばしお待ちいただければ幸いです。
お店の再開に関しては各SNSにて随時更新してきます。
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