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中小企業はこうして社内コミュニケーション力を磨け!

<要約>IT活用型企業として、社内の仕事のノウハウ、経験、知恵、重要な情報などを一元的にストックし、活用し、それを組織的成長の礎にしようとすれば、ベーシックな日本語を使いこなしながら、簡潔かつ的確に書くスキルを社員が磨いていかねばならない。このことの重要性は、今後一層高まるだろう。何も大げさな集合教育をする必要はない。毎日の日報執筆、上司への報告、会議運営などで、こうしたことを心懸けるだけでも、1年後には大きな違いとなって現れてくるに違いない。

 私は、ITを活用して組織的経営活動を実行する企業のことを「IT活用型企業」と呼んでいる。ところで、IT活用型企業の実現には、その前提として社員のスキルアップが必要不可欠である。これは、ITは所詮は道具であり、道具を使って仕事をする“主役”は社員なのだから必然的なことだ。そして、社員のスキルの中でも、とりわけ“書く技術”のレベルアップが避けて通れない。このことは、以前にも指摘した。

 大企業では(現実に仕事の成果に結びついているかどうかは分からないが)、ルーティンワークとして、社員は“書く”機会に溢れている。そのため、IT活用を行なって情報共有化を推進しようとした場合、最初の関門はあっさりクリアできる。理由は簡単だ。グループウエアや電子メールなどのITツールを使って情報共有化を推進しようとすると、状況を簡潔に整理し、自分の言いたいことを的確にまとめる力が必要となるからだ。

 しかしながら、大企業と違って中小企業の現場では、社員は総じて書くことが苦手である。どうも、中小企業では「書くこと=難しいこと、仕事には関係のないこと、手間のかかること」と考えているようだ。

 だが、私の経験では、書くことが苦手な人は仕事ができないことが多い。これは、書く前に自分の言いたいことを考えて整理する必要があるからだろうか。書くことが苦手な人は、考えることが苦手な人と重なることが多い。こうした根元的な問題を抱えている人は、書くことに限らず、口頭で報告する場合でも言っていることに要領を得ない。

 今回は、書くことに限らず、中小企業の社員の表現力をどう伸ばすかについて考えてみよう。それが社内コミュニケーションの向上、ひいては組織としての生産性の向上につながるはずだ。

【結論がどこにあるかわからない人】
 話しを聞いていても、細かいことや趣旨に関係の無いことを延々と話して、いくら話しを聞いても何を話したいのか要領を得ない人がいる。こういう人は、上司から「結論を先に言いなさい」と何度も言われていることだろう。

 しかし、いくら注意を重ねたところで、なかなか改善されることはない。本人も、もともと何を話したいのか分からないで話しをしているためだ。このような人には、大枠で何を伝えたいのか、まず箇条書きでも良いから書き出してもらい、それから報告を受けるようにすべきだろう。

【言い訳を先に並べようとする人】
 このような人は、結論を先に言わない人と一見変わらないように映るが、区別することが必要だ。
 
 要は、自責の念が無いことが最大の問題である。こういう面々は、トラブルを常に“他責”というフィルターで処理してしまう。何かができなかったり失敗があったのは、自分の周囲の環境に問題があるなど、基本的には他人の責任。自分の仕事の納期が遅れたのは、上司の指示があいまいだったからであり、一緒にチームを組んだ他の人の仕事が遅かったからである…といった具合。
 これは、一見“考える力=書く力”に関係がないように思えるが、そうではない。

 仕事というものは、常に工夫を凝らして(つまり考えて)進めて行くものだ。あまり考えていないから、自分が工夫して問題を未然に防げなかったことに対する責任に思いが至らない。だから、報告にもそれが現れるのである。こうした傾向のある中小企業の社員は、私の印象では、古参社員や大企業出身者に多い。

 こういう人には、積極的に当事者意識を持ってもらうことが先決だ。だから、何かトラブルが起きても、決して当人の責任を問うのではなく、事態の冷静な分析と効果的な事後処理、そして今後そうしたトラブルが起きないための改善策を提出してもらうようにしたほうがよい。

【言葉を知らない人】
 報告を行なうにも、的確な言葉を使えない人が中小企業には確かに多い。うまく言葉を選ぶことができないで自分の言いたいことを表現できなかったり、伝えたいこととは別の意味になってしまったり、仕事で使うには少々失礼な言い方をしてしまって相手の余計な憶測を呼んでしまったりと、言葉の不適切な運用が原因でうまくコミュニケーションが取れない場合が結構あるのだ。

 しかし、何もアナウンサーのようなスピーチ力や研究者レベルの論文執筆
力が日常のビジネスで必要な訳でもあるまい。ごく限られた語彙を、時と場合に応じて適切に使いこなせれば十分なのである。ベーシックな日本語の使い方は、ほんの少し心懸けるだけで、仕事や余暇などの日常生活を通じて磨いていくことは十分可能である。

●日常業務や余暇を通じてコミュニケーション力は鍛えられる

 私がおすすめしたいのは、日々身の回りで遭遇する“ベーシックでうまい日本語表現”に学んでいくことだ。

 例えば、新幹線の電光掲示板で流れるニュース速報を見ていると、必要最低限の語彙で豊富な内容を伝えていることに感心する。これは、ある程度話題の背景などが読者に認知されていることを前提にした速報ではあるが、たった数十字の中で、伝えたい事項を見事に表現している。

 もちろん、新幹線のニュース速報と、記録として残す必要のある仕事の現場での打合わせ資料や議事録とは、文章の目的が明らかに違う。ただし、必要最低限の語彙で内容を的確に伝えるコツは相通じるものがあるだろう。

 いずれにしても、これからのビジネスの現場で重要なことは、“記憶”より“記録”である。記憶だけでは忘れてしまったり、伝えるたびに違った内容になってしまったりしかねない。記憶していることをキチンと文章に残し、確実に周囲の人に伝えられるようにしなければ、組織的な行動など取れるものではない。キチンとした記録を残すには、的確に文章を書けることが必要だし、的確な文章を書くには道筋だって物事を考えることが必要だ。書くことで、話し言葉も改善するし語彙も自然に増えてくる。

 IT活用型企業として、社内の仕事のノウハウ、経験、知恵、重要な情報などを一元的にストックし、活用し、それを組織的成長の礎にしようとすれば、ベーシックな日本語を使いこなしながら、簡潔かつ的確に書くスキルを社員が磨いていかねばならない。このことの重要性は、今後一層高まるだろう。何も大げさな集合教育をする必要はない。毎日の日報執筆、上司への報告、会議運営などで、こうしたことを心懸けるだけでも、1年後には大きな違いとなって現れてくるに違いない。

(本記事は、「SmallBiz(スモールビズ)※」に寄稿したコラム「近藤昇の『こうして起こせ、社内情報革命』」に、「第62回 中小企業はこうして社内コミュニケーション力を磨け!」として、2003年11月20日に掲載されたものです。)
※日経BP社が2001年から2004年まで運営していた中堅・中小企業向け情報サイト

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