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ストレス耐性は弱くなる一方?

秋の気配が感じられるこの頃になると早い企業では既に、再来春の新卒採用活動に動き始める。

当社でも来春の採用が一段落し、そろそろイメージだけでもしておこうかという感じだ。

この採用する採用されることに関して、ありきたりだけれども、でも、気になるというデータがある。

それは、『人事の人に聞きました。どんな学生を採用したいですか?』という類のアンケート集計だ。

特に、「入社までに身に付けて欲しいスキルや入社までに知っておいて欲しいこと」というのが定番の項目。

例えば、2007年11月30日付けの日経新聞には「学生時代に身に付けておきたい社会人としての能力」という記事がある。
上位は以下の通りだ。

1位:豊かな一般知識・教養
2位:基本的なビジネスマナー

3位:コミュニケーション能力

1位、2位の重要性はこの激動の20年間を見てもほとんど変化がない。

いくら新人といえども学生時代とは異なり、給与をもらうわけだから、当たり前といえば当たり前。

3位に登場しているコミュニケーション能力は、この10年間で特に重要視されてきたという印象が強い。

それだけ、若者の人とのコミュニケーション能力が低下してきているともいえるし、企業側からすれば、サービス力の向上を会社の重要課題とする傾向が増えたため、こちらも当然といえば当然か。

実は、このような集計では、必ずしも上位にはランクインしないが、採用する側の本音ベースでいうと、ストレス耐性も相当重要視している。

前出のコミュニケーション能力とストレス耐性は密接に関係がある。

言ってみれば、これらは対人対応能力ともいえるだろう。

最近の若い世代は、一般的にも知られている通り、人とのかかわりを敬遠する人が増えている。

特に、本音で腹を割るという付き合いが減っていて、表面上の付き合いで済まそうとする傾向が強い。

その分、チームで活動したり、人との揉め事を解決する時のように、少々深いかかわりを持つべき場面に遭遇すると、ストレスを感じる人は多い。

これが仕事となると尚更だ。

最近では、ストレスが高じてうつ病になる人も増えている。

現代社会では、企業側にしてもビジネスパーソンのうつ病の問題は深刻だ。
特に大企業に多いといわれる。

中には全従業員の1~2%がうつ病もしくはその予備軍という企業もあるという。

たかが1%と言うなかれ。

仮に1万人が在籍する大企業とすれば100人は存在することになる。

そもそも、日本そのものが健全ではない。

社会全体でみても、年間の自殺者は3万人を超えている。

先進国の中ではダントツの数値だ。

極端にいえば、社会全体がストレスを感じ、平穏には住みにくく、疲れ易い状態であるといえる。

自殺者が近年急増したのも、このストレス社会の影響が少なからずあるだろう。

実際20年前に比べても、働くことのストレスは格段に大きくなった。

厳しい顧客の要求、経営の透明化ヘのプレッシャー、経営環境の悪化、競争の激化、リストラなどでの雇用上の不安定さなど、20年前では特に問題として認識することがなかった新たなテーマばかりだ。

これだけ経営環境が厳しくなると、働くことはそれだけで疲れるということだ。

自然と採用する側は、入社前からストレス耐性のある逆境に強い人を採用したいと思うようになる。

しかしながら、企業の思いとは裏腹に社会にはストレス耐性の未熟な若者がどんどん増えている。

このストレス耐性を見抜くのは容易ではない。

面接をどんなベテランが行ったとして、簡単に判別できるものではない。

最近では、診断テストを利用することも増えた。

それだけ企業側も苦労しているのだ。

一方、学生側も最近はおぼろげながら、企業側の期待や要求に気づいているようだ。

20年も前であれば、アルバイト経験のみを自己PRしていればよかった。

今では、そんなことはPRポイントにもならない。

企業側がストレス耐性を求めていることを知っている学生は、そのアピールに躍起になる者もいる。

例えば、外国でNGO活動したとか、留学したとかの自己PRも増えたきた。

実際のところ、学生が考えるストレス耐性と企業が求めるそれにどれほどギャップがあるかが問題なのだが…。

まずはストレス耐性とは何かを考えてみたい。

一言で言い切るのは難しいが、要は、仕事は学生たちが経験も想像もした事もない場面で、忍耐と努力が要求されるということだ。

人に指示・命令されて何かをすることに不慣れな若者も増えた。

一方、企業側からすれば、ただでさえ甘やかされて育った今の若者を
再教育する必要がある。

本音は、厳しく教育し、しつけたいと考えている。

それをストレートに出す場合と、あの手この手で創意工夫(私はごまかしだと思うが)でやる気を引き出したりする。

いずれにしても、厳しくしつけないとそのままでは使い物にならない。

昔よりビジネスの現実は厳しさを増している。

そのようなことは当たり前のことといえる。

そのためか、企業は、根気よく時間をかけて人材を育成しようとする。

まともな会社であれば、短期間で辞めても良いと考える会社などない。

採用したからには継続をしてもらいたいわけである。

ところが、今の若者はすぐに投げ出す。

ストレスを感じると我慢できずに辞めるか、精神的な参ってしまうかである。

学生たちに言いたい。

確かに今より昔のほうが生活環境が貧しかった分、その時代を生きてきたというだけで厳しく強く育っている。

少々のことでへこたれることもない。

昔のレベルを今の若者たちにいきなり要求することはかなり乱暴だ。

しかし、しばらくは良いが、日本は少なくとも経済は衰退期に入りつつある。

本当の意味で厳しい環境がもうすぐやってくる。

その時代に生き残り、勝ち抜くためにも今から訓練しておく必要がある。

その志があるのであれば、少しずつでも、メンタル面強化に本気で取り組むべきだ。

このテーマで安易な楽観論をいう気はないが、よくメンタル面が強いと表される社長でも、実は小心者であったりする。

「小心かつ大胆に」という言葉は、成功した経営者が好んで使うケースが多い。

ひとつずつ階段を根気よくあがっていけば、仕事のスキルが高まるように、
メンタル要素も鍛えられていくのである。
当然、ストレスにも強くなる。

生まれつき、ストレス耐性が強い人などほとんどいない。

竹が節をつくるように、少しずつ、しなる力がついていくものだ。

こんな事を考えながら、本気で思うことがある。

「ビジネスの基本スキルやマナーとともにメンタルトレーニングが必要」と。
そして、どこかの企業が入社前教育サービスとして、講座を受け持たなければならない時代がやってくるのではないか。

既に、計画的にメンタル面を強化する取り組みが必要な時代に入ったのかもしれない。

(本記事は、ブログ「近藤昇の会社は社会の入り口だ」に、2008年10月6日に投稿したものです。)