見出し画像

電子メールによる情報共有は1日にしてならず

 電子メールが仕事上のコミュニケーションの重要な手段として、急速にビジネスの現場に浸透している。取引先からの催促で、外部とのやりとりに電子メールを使わざるを得なくなった中小企業も増えている。小さな組織なら、いきなりグループウエアを導入せずとも、電子メールを使いこなすだけで、かなりのレベルの情報共有ができる。そのため、厳しい経営環境の中、チームワークによる業績向上を狙う目的で、社内コミュニケーションを活発にするツールとしても重宝されつつあるようだ。
 積極的に一般社員の声を吸い上げようとしている経営トップは数多い。‘目安箱’なるものを設置して現場の意見を吸い上げようとしている会社もある。‘誰が発信したかが分かるように記名式の運用で’というのが経営者の本音だろうが、これだと率直な意見が集まりにくい。そこで、時代錯誤と言われようと、無記名形式で運用できるアナログな目安箱を運用しているわけだ。

 電子メールはシステムの仕掛け上、無記名にはしにくい。従って、メールは基本的には記名式で運用となる。つまり、誰が書いたかが分かってしまうことが前提である。一見、非常に便利なツールではあるが、社内の情報共有目的で使用する場合は、気をつけなければならない点がいくつかある。

 社内の恥をさらすようだが、私は以前、こういう体験をしたことがある。数年前のことだが、朝出勤して会社のパソコンでメールを開くと、ある管理職宛に非常に激高した内容の糾弾メールが送られており、それが私を含む共有宛先全員に届けられていた。その発信人は、普段はおとなしく慎重な性格でならしているA君だったから、社内は騒然となった。発信日時を確認すると、午前2時ごろである。深夜に業務レポートを自宅でまとめ、上司が朝一番で確認できるようにメール送信したのだろうが、夜遅い時間帯だけに、疲労から精神的な失調でも起こしてしまったのだろうか…。

 小さな会社ゆえ、私はすぐさまA君に直接会って「いったいどうしたの。冷静なキミらしくもない」と事情を聞いた。すると、「実は…。深夜の自宅なもので、ちょっとお酒をたしなみながらメールを打っていたら、ツイツイ気が大きくなって…」とのことだった。メールでは、相手が酔っているかどうかまでは分からない。これは、私自身も大いに反省させられた事件だった。言いにくいことほど、きちんと相手に会って直接言う…こうした習慣を普段から社員の間で定着できていなかった、社長の私の不徳の致すところだからだ。表出できない不満を溜め込んだ社員は、ひとたびメールを手にすると、こんな暴発をするリスクが高いのだ。

●社内コミュニケーションの基本は、あくまでアナログ

 また、まったくの事務連絡ならともかく、少しでも主観や感情表現が入ると、メールというものは厄介だ。例えば、「私は、あなたの仕事の進め方がちょと気になってます」とメールで文章を送ったらどうだろうか。普段から忌憚のない付き合いをしていれば、読み手はプラスに取ったり、笑い飛ばして済ますだろうが、あまり付き合いが深くなければ、「相手は自分に悪意を持っている」と取るだろう。企業でメールを仕事に使っていると、こういうズレは日常茶飯事に発生する。

 メールというものは、使い方を間違えると社内の雰囲気が険悪になってしまうリスクをはらんでいる。だから、管理職や経営者と社員が面と向かって話せる雰囲気がない状態で、メールを導入したらどうなるか。まったくメールは利用されないか、陰湿なチクリ合いやタレ込みメール、暴発メールが続出するかのどちらかだろう。こういう状態に知らず知らずに陥っている会社は数多くある。

 非常に難しい道のりではあるが、仕事上のことは、仕事場でも会議の場でもお互いになんでも言い合えるオープンな会社の風土を、まず経営者や中間管理職が率先してつくりあげる。この前提があって、初めてメールによる情報共有は飛躍的に進むのである。面と向かってのコミュニケーションが会社組織にとっての基本であり、デジタルツールはそれを補うものであることを、よく認識しておく必要がある。

 千里の道も一歩からである。

(本記事は、「SmallBiz(スモールビズ)※」に寄稿したコラム「近藤昇の『こうして起こせ、社内情報革命』」に、「第26回 電子メールによる情報共有は1日にしてならず」として、2002年6月10日に掲載されたものです。)
※日経BP社が2001年から2004年まで運営していた中堅・中小企業向け情報サイト