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中小企業がオーダーメイドのシステム開発で失敗する理由

 前回の『ASPの普及で、ソフト産業はユーザー企業主導になる』で私は、中小企業のIT導入のきっかとしてASPの活用をご提案した。しかしASPでは解決できない課題というものも確かにある。ではASPで力不足なら、次にどのように考えればいいのか。
 結論から先に申し上げよう。私は、中小企業が自社にシステムを導入しようと考えた時には、まずパッケージソフトの活用を検討すべきだと考えている。というのも私の経験上、中小企業のIT導入で最も失敗が多い例というのは、オーダーメイドのシステム開発を選択した場合だといっても過言ではないからだ。 今回は、そうした失敗事例を参考に、システム開発自体の注意点について考えてみたい。まずは以下に、オーダーメイドで失敗したシステム開発事例をご紹介しよう。

 ある仕入れ販売を行なっている年商20億円の中小企業があった。この会社は、売上規模も拡大傾向にある中で、これまで手作業で行なっていた自社独特の販売管理業務をIT化によって効率化を図ろうと考えた。そしてオーダーメイドのシステム導入を計画したのである。

 そこで、この企業の担当者A氏は、地元のソフト開発会社に話しを持ち掛け、見積もりを取った。出てきた見積もり金額は、総額1000万円。特に、他のソフト開発会社に見積もりを取ることもせず(つまり複数の開発会社の見積もりを比較することなく)、その会社に発注をした。

 その後半年をかけ、何回もの打ち合せを重ねてシステムはできあがった。しかし実際に使ってみると、バグは多いし、さらに自分達が希望していた機能を全て満たしているとは到底思えない。改良を加えるように開発会社に強く要望を出したところ、契約範囲外との理由で、別途費用の支払いがないと作業しないと主張してきた。結局、システムは一部の入金処理だけにしか使われることがなく、他は全く機能していない、という結末を迎えたのである。

 企業経営の視点からみれば、この投資は明らかに失敗である。しかし残念なことに、これは決して特殊な例ではないのだ! 現実問題として、中小企業がソフト開発会社にオーダーメイドのシステム開発を委託することは、さまざまなリスクをはらんでいるのだ。

●“成果が見えない”“自社業務が伝わらない”…etc.

 ここでオーダーメイドのシステム開発のイメージを掴んでいただくために、一戸建ての住宅を作ることと対比させてみたい。以下、簡単に整理してみる。

(1)現状業務の把握
 これは依頼された側が「どういう家を建てたいか、という要望を、お客さん(=発注側)から聞き出す作業」だ。この段階では、お客さんには専門知識がないので、せいぜいよその家を見て、あんな家を建てたいとか、材料費は無視して、こんなカーペットの応接間の家を建てたいといった要望が出てくるレベルだろう。依頼された側は、しっかり相手の要望をヒアリングすることが重要になる。

(2)システム仕様の設計
 これは「建築士が作る設計書のこと」である。平面図、立面図、パース、最近では、三次元グラフィックスでイメージも掴めるようになった。また、一戸建ての場合は、展示場などで、だいたいの一戸建ての完成イメージを体感することが可能だ。システム開発では、要件定義、基本設計などと一般的にいわれる工程である(ただシステム開発では現物として見えにくいので、イメージを体感することはかなり難しいが)。

(3)システムの開発
 「大工さんや左官屋さんが家を実際に建てること」である。システム開発の工程では、プログラムを書き、システムを製造することである。厳密にいえば、部品の作成、部品の連結などの工程があり、それぞれにテスト作業がついてまわる。品質の向上のためには重要な作業である。

(4)システムの運用
 「家に実際に住むこと」である。試しに住んでみるということではない。実際に見てみれば、家の機能はすべて実感できる。システム開発の工程では、一般的には、今までのシステムと新しいシステムの並行稼働で行なうテスト運用から始まる。その後、新しいシステムでの本番運用に切り替える。このテスト運用の時期にもいろいろと問題点は発生する。なぜなら、システムは使い始めてようやくお客さんが理解を始めるからである。

 こうして整理して見てくると、システム開発の仕事は「何だ、当たり前のことをキチンとやってくれればいいだけじゃないか」と思われるかもしれない。しかしこの工程の中には、実は大きな落とし穴があるのだ。

 それは(2)でも少し触れたように、成果物がそもそも見えない、ということだ。もちろん、大抵のシステムにはユーザーが直接相対することとなるパソコンの操作画面や出力帳票というものがあり、それで確認することはできる。しかしいかんせん、見えない部分が多すぎる。建築でいえば、それは、柱の中身であり、壁の中身である。でもこれも加工前の段階である程度は確認できるだろう(手抜き工事をされればもうどうしようもないが、普通はよほどの悪徳業者でもない限りありえない)。

 もちろん、システム開発でも手抜きはないが、やっかいなのは、画面、帳票以外の見えない部分を確認するのは、素人では不可能だということだ。結局は、発注側とシステムを引き受ける側が、お互いに相手の使用する用語を理解していないにもかかわらず、 お互いが分かったような錯覚で会話を進めざるを得ないのが現実である。自ずと、かなりの食い違いが発生することになる。

 つまりシステム開発は、現物として見えないがために、大きなトラブルの元になる食い違いが発生しやすいのだ。では、「優秀なシステム開発会社に依頼すればいいではないか」ということになるが、実態はそんな簡単には解決できる問題ではない。その理由はいくつかあるが、見落としがちな問題として、中小企業側の担当者のスキル不足が挙げられる。

 具体的にいうと、 自社の業務を効率よく、正確に、説明するスキルを持っていない場合がかなり見受けられるのだ。多くの担当者が、「説明する」のではなく、「理解してくれ」というスタンスなのである。既に説明したが、ソフトは目に見えないだけに、曖昧さを含んだ説明が問題を大きくしてしまう。そこで発注側は、ソフト会社にもっと自社の業務に精通して欲しい(これは、経営者の意識調査データでも明らかだ)となる。 こういう場合は、ソフト会社は別途費用で、と申し出る。結果、費用の問題でなかなか折り合いがつかない。

 前回のコラムで私は、IT業界の未熟さを指摘した。特にソフトウエア業界は「目に見えない」「分かりづらい」「体感しがたい」といったまさに“三重苦”を、そのままユーザー企業に味わわせてしまっている、という内容である。こうした未熟さは今すぐに解決できる問題ではない。さらに中小企業側にも、自分たちの要望を伝えきるだけの技量を持たない。その結果、“意識のズレ”を内包しながら、システム開発は進むことになる。失敗は、起こるべくして起こっている、ともいえなくはないのである。

 今回は、「企画・製造工程」に着眼して、オーダーメイドシステムの失敗例を考えてみた。このオーダーメイドの対極にあるのが、パッケージソフトである。次回以降、中小企業のIT活用にはオーダーメイドでなく、パッケージソフトを使うべき、という理由について、さらに深く考えてみたい。

(本記事は、「SmallBiz(スモールビズ)※」に寄稿したコラム「近藤昇の『こうして起こせ、社内情報革命』」に、「第48回 中小企業がオーダーメイドのシステム開発で失敗する理由」として、2003年4月28日に掲載されたものです。)
※日経BP社が2001年から2004年まで運営していた中堅・中小企業向け情報サイト

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