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日本の組織の“会議再生”の糸口はどこにあるか?

 前回のコラム『日本の組織の“会議下手”の原因は何か?』では、会議が往々にして実りのないものになってしまう原因について考察した。今回は、では一体どうすれば、その会議を企業活動の重要なファクターとして機能させることができるのか…この点について考えてみたい。
 最初に申し上げたいのは、会議を有効に機能させるためには、「会議の進め方」といった方法論にだけ考えを巡らせていても、根本的な解決方法は見つからないということである。そもそもなぜ会議が有効に機能しないのか。これについては前回、「参加者がはっきり意見や本音を言わない」ことを真っ先に挙げた。その根っこには、日本企業の“官僚体質”が根強く残っていることについても触れた。

 会社での仕事とは、本来は目の前の問題を解決し、経済的な成果をあげることを目的とする。そして、会議はそのためのベストの方法を煮詰める場のはずである。ところが、官僚体質が根強いと、問われるのは“成果”よりも“手続き”や“プロセス”になりがちだ。仕事上の成果を出すことより、上の意向どおりの手続きを踏むことが、過度に重視される。その結果、会議の目的が失われてしまうのである。

●一人だけでも始められることはある

 多くの場合、こうした個人の力ではどうしようもない“組織体質”によって、モチベーションの高い人は、実りのない会議等を通じて疲弊してしまう。しかし私は敢えて言いたい。こうした体質は、徐々に切り崩せるものなのだと…。こう書くと、“そんなことは分かっている。それができないから困っているんだ。たった一人でどうやって巨大な相手に立ち向かうんだ!”という声が聞こえてきそうである。

 確かに社長でもない限り、個人の力で、一朝一夕に組織全体を変えることは不可能かもしれない。しかし少なくとも、皆さんは「部」「課」「係」という小単位に所属しておられるだろうし、それ以外にも一緒に仕事を進めている部署があるはずだ。まずは、そうした身近な人たちとの“会議”を活性化させることから始めればよいのである。

 ここで私のいう“会議”とは、いわゆる多くの役職者がずらりと集まって行なう会議ではなく、“必要に応じた簡単なコミュニケーション”ということである。もっと噛み砕いていえば、まずは身近な人とのコミュニケーションを心がけることで、「はっきり意見を言わない、本音を言わない」といった“クセ”を互いになくし、一定時間内に結論を出す努力をしていくことである。この小さな取り組みでさえ、最初は非常にパワーがかかるだろう。課長や部長などの上の立場の人間が、常日頃から問題を先送りせずに一定時間内に答えを出す習慣を心懸けてくれれば、苦労はないのに…こんな愚痴を言いたくなるかもしれない。しかし、個人ベースで手をつけられることから始めること以外に方法はない。そのためには、こうしたゲリラ的な“会議”を至るところで発生させ、「はっきり意見をいわない」クセから「自分の意見を述べる」クセに周りの人間を変質させていくことである。

 また、物理的に遠い人であっても、同じ“体温”を持っている人なら、継続的に“会議”を行なっていくべきだ。インターネットの普及によって、コミュニケーションはもはや時空を越えている。こうして現場から上層部へという方向で、組織体質を変えていくチャレンジをし続ける。そして次にあなたが管理職になった暁には、今度は上から下へ、あるいは他の課へのヨコ方向へといったように“影響領域”をさらに広げていく努力をし続けるのだ。

 こうした努力は、あるいはすぐには報われないかもしれない。しかし、あなたが問題意識を持っているのなら、こうした身近な努力から、まずは始めてほしい。仮にうまくいかなくても、組織体質を見抜いたうえでどう風穴を開けるかといった“感性”は、確実に深まっていくだろう。もっと素晴らしいアプローチ方法が見つかるかもしれない。決してあなた自身の未来にとって、ムダにはならないはずだ。

 ちなみに、上で私が述べたゲリラ的な“会議”が、全社レベルで機能しているのが花王である。オフィスにはパーティションがなく、どの部署もまずフロアの中央に大きな「オープンスペース」があるという。そして、必要に応じてこのオープンスペースが“会議の場”に変わるのだ。必要に応じて関係者が集まり、すぐに結論を出す。だから物事は非常に速く進む。ある部署ではこの「オープンスペース」以外にも、6ヵ所の会議スペースがあるという。ゲリラ的な会議の必要性が、充分に認識されている証拠だろう。

●フォーマルな会議の「定石」も押さえておきたい

 さて、あなたの努力で周りの人へ働きかけるのと平行して、やはりフォーマルな会議のあり方についても、見直すべき点は大いにある。まずは「会議自体の意味」を明確に意識することだ。本来会議とは、「皆の智恵を集約して議論を重ね、目標に向けた活動プランを生み出していくための場」である。これを再認識し、例えば「この会議ではここまで決める」「次の会議までに、誰が、何を、いつまでに、どうする」といった各会議の目標設定を行なう。こうして、まずは今、目の前にある会議の目的を明らかにすることに全力を注ぐのである。

 例えばGEエジソン生命では、会議で成果を出すために、独自の会議手法をとっている。会議に当たっては各参加者に明確な役割が与えられているのだ。会議の主催者は「スポンサー」と呼ばれ、プロジェクトの責任者である。しかし会議には出席しない。テーマと期待するゴールを与えるだけである。そして実際に会議を進めるのが、スポンサーから任命された「ファシリテーター」で、参加者の意見を引き出し、会議のプロセスをチェックする。このほかに「タイムキーパー」「スクライバー(書記)」がいて「プレゼンター(発表者)」「メンバー(会議参加者)」がいる。効率的に成果をあげるための機能が各人に割り振られているのである。そして、提示されたゴール実現のためにアイデアを出し、最終的な行動プランを作成するのだ。

 こうした会議の手法はそう簡単にはどこの企業でも真似できるものではないだろう。しかし、少なくとも「到達目標」を設定し、その目標に向けて会議を進める努力をするということは可能なはずだ。会議の開催に当たっては、まずはこうしたところを意識するだけでもかなり違ってくるのではないだろうか。役員がずらりと並んだ会議はともかく、部署単位の会議なら、チャンスを待てば突破口はあるはずだ。

 また、会議の内容を記録する「議事録」にも注意を配ってみたい。議事録の最大の目的の一つは、「会議の記録を残し、出席者もしくは必要な人に開示して、議事内容(=今後の活動プラン)を把握してもらう」ことである。ITツールの利用で、よりスピーディーに多くの人に情報発信が可能となったが、議事録の内容が稚拙で、要領を得ないものだったら意味がない。参加した人とて、時間が経てば会議の内容は忘れてしまう。会議の成果は薄れ、会議後の行動指針にあいまいさが残る。

 だから、あなたが実際に議事録の担当だったら、工夫を重ねよう。あなたが議事録をチェックする立場なら、書かせている人間に根本的に文章能力がないと判断したら、担当者を変更するのもやむを得ない。その前に、内容にあいまいな点があれば質問を投げかけ、ポイントを突いた議事録のまとめ方を皆で共有したいものではあるが…。こうして議事録のクオリティを高めていく作業も、地道ではあるが必要なことである。

 確かに“会議再生”へのゴールは、遠い彼方にあるように感じられるかもしれない。しかし皆さん、どうかあきらめないで欲しい。もちろん、社内の官僚主義と正面衝突して“玉砕”するのは愚か者である。しかし、一人だけでも始められることは、上にも述べたように必ずある。そうした前向きさに感応してくれる同志も、必ずいるものである。今日からでも小さな努力を始めよう。社内の官僚主義を十分に理解したうえで、あくまで攻めの姿勢を失わない…そうした態度が、あなたに“精神的な爛熟”と、長期的には“仕事の成功”をもたらしてくれると確信する。

(本記事は、「SmallBiz(スモールビズ)※」に寄稿したコラム「近藤昇の『こうして起こせ、社内情報革命』」に、「第43回 日本の組織の“会議再生”の糸口はどこにあるか?」として、2003年2月17日に掲載されたものです。)
※日経BP社が2001年から2004年まで運営していた中堅・中小企業向け情報サイト

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