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現場の期待を裏切るな

某中堅医療用品製造販売会社の経営システム診断を担当した時のこと。役員会への参加、システム担当者を交えての打ち合わせの末、現場からの情報収集を念入りにやろうという結論になった。

 総務、経理、営業、生産現場などの事業部責任者、各業務担当責任者(もっとも、このクラスの中小企業ではパートの女性が多いのだが…)と、順次ヒアリング面 談を進めていくことにした。事前には、ヒアリングシートに各部署が抱える課題や改善提案をしっかり記入してもらっている。各部署の管理職クラスからは、順調に会社への文句や、それでも改善してほしいという要望など、様々な現場情報が収集できた。

 いよいよ、総務部販売管理担当主任の番である。経営陣からは、この女性はとても仕事ができ、上司の信頼も厚いスタッフとの事前情報を聞いていたのだが…。なんと開口一番、こう切り出されてしまった。「ヒアリング、ヒアリングって、これでもう3回目なんですよ」「いつもシステム改善をやるやると掛け声だけはいいんだけど、結局尻切れとんぼなんです!」

 この会社は、10年以上も前にオフコンの販売管理システムを導入した。決して社内の情報化に無関心な会社ではない。3年くらい前にオフコンを入れ替えたが、なぜかシステム保守料がぐんと上昇してしまった。そこで、オフコンをパソコンLANにリプレースしたらどうかという話が持ち上がった。特に明確な理由があったわけではない。世の中のすう勢がそうなんだから…というもっともらしい理屈で、情報化投資が動き出した。その後どうなったか、女性主任の言い分を聞こう。

尻切れとんぼの常習犯
 「もうコリゴリなんですよ、こんな空しいやりとりは」。ええ、どういうことですか。過去にもやりとりがあったんですか。「あったも何も、今まで2回システムを見直すからといって、コンサルタントという名の人がやってきて、現場ヒアリング。ちゃんと結果をまとめてトップに提案して、改善していきますからといっておきながら、何のフィードバックもなく、結局はうやむや。こういう会社なんですよ、ウチときたら…」と力説するのである。

 コンサルタントが報告書をまとめ、それに基づきりん議があがってきても、社長は「自分は素人だし、他にはシステム担当のA君しかコンピューターに詳しい人間はいないし…」と、そのたびに投資判断を先延ばししてきたようなのだ。

 こういう話は、頻度としては少ないが、時たま出くわすケースである。経営に失敗は付きものとはいえ、これは明らかに、絶対にやってはならない類の失敗だ。現場の期待を裏切ることを、すでに二度やってしまっている。IT投資を中止するならするで、その理由と善後策を、ヒアリング後に直ちに現場に示す。経営者が現場との信頼関係を大事にすることは、IT化以前の問題だろう。

(本記事は、「SmallBiz(スモールビズ)※」に寄稿したコラム「近藤昇の『こうして起こせ、社内情報革命』」に、「第1回 現場の期待を裏切るな」として、2001年7月3日に掲載されたものです。)
※日経BP社が2001年から2004年まで運営していた中堅・中小企業向け情報サイト


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