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モノから入るIT化は失敗する

 中小企業のIT化の必要性がいたる所で叫ばれている。当然社長にしてみれば、「IT化を急げ」と部下に号令をかける。たいていは、総務や管理といった部署にいる、ややパソコンに詳しい人物に「お前がやれ!任せたぞ」となる。にわかIT担当者は、IT化そのものの本質的な課題や正しい導入手法をよく分かっていないので、ほぼ間違いなく‘モノ’から揃えていく。しかも、「パソコン誌で見た最新機種を、この際どーんと」という私心を満たしながら…。

 ある時、こういう会社の話を聞いた。年商にして25億円、社歴30年、利益も堅調に推移している、小さくても堅実なメーカーである。ITに詳しいコンサルタントのアドバイスで、計数管理のうち可能なところはIT化を急がねば、と社長は考えた。オフコンをそこそこ業務では使用していたが、バージョンアップの費用がかかりすぎる。どうせならパソコンLANで情報の共有化も図ろうと、関係者間で自然にコンセンサスができていった。

 この会社の社員は100人おり、パソコンは既に10台程度をワープロ機として使っていた。パソコンLANを導入するにあたり、コンサルタントは、パソコンの新規導入は最初はせいぜい20台程度で十分と、至極まっとうな提案をした。総務・経理・人事などの事務職場ならいざしらず、他の職場のパソコン使用頻度は低いはず。まずは職場に1台ずつ導入し、徐々にパソコンを浸透させればよい、という腹づもりである。ところが、にわかIT担当者は現場の意見を過大申告し、「パソコンは1人1台でないとパソコンLANを導入する意味がない」と、社長を押し切ってしまった。

 だが、その時点で圧倒的多数の社員はキーボードに触れたことさえない状態だった。しかも、パソコンがないと仕事ができない立場の者もほとんどいなかったのに、すべての役員と営業部門、生産部門に対して60台のパソコンが与えられた。

モノの購入はステップバイステップで
 いくらパソコンが安くなったといっても、これは明らかに過大で無駄な投資だ。半年経ってワープロを使う人が少し増えたものの、投資コストに見合う活用はほとんどされなかった。結局は、目まぐるしいモデルチェンジの中、60台のパソコンは宝の持ち腐れになってしまった。今では職場の片隅に追いやられ、埃をかぶっているという。

 まずは社員に職場共有のパソコンで操作を習熟させてから、随時最新機種を買い足していけば、大きな投資ロスはなくなる。パソコンは常に安く高性能になっていくからだ。それに、職場のパソコンは最新スペックである必要などない。事務処理やメールができればよいのだから、Windows95にOffice97だっていっこうにかまわない。古いパソコンがLANを通じて最新機種と共存していてもよいのだ。

 これは、あくまで中小企業を前提とした話である。大企業であれば、どんな職種であれ、日常的に報告書をワープロで、見積もりを表計算で作成し、それを職場で共有するという基本動作ができている。だが、事務作業を女性が一手に担い、男性には何より現場仕事が求められる中小企業では、どうしてもパソコンの操作スキル、活用スキルは低くなりがちだ。その現実をありのまま認めることからスタートしよう。‘モノから入るIT化’を拙速に進めることは、厳に戒めたいものである。

(本記事は、「SmallBiz(スモールビズ)※」に寄稿したコラム「近藤昇の『こうして起こせ、社内情報革命』」に、「第3回 モノから入るIT化は失敗する」として、2001年7月3日に掲載されたものです。)
※日経BP社が2001年から2004年まで運営していた中堅・中小企業向け情報サイト

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