【映画感想】ビバリウム【単調、退屈で面白いホラー映画】
コンブの備忘録
ビバリウム(原題:Vivarium)
監督:ロルカン・フィネガン
主演:イモージェン・プーツ
ジェシー・アイゼンバーグ
新進気鋭の監督ロルカン。
「知らねぇ」と思い早速作品ホームページを確認すると、、、、
「人気SFシリーズ「ブラック・ミラー」のクリエイターであるチャーリー・ブルッカーの制作会社Zeppotronでモーションデザインや編集を担当する。のちに監督も任されるようになり、それ以降は短編映画やミュージックビデオ、CMなど幅広く映像作品に関わる。」
(https://vivarium.jp/ 2021年8月19日参照)
なるほど、この情報が鑑賞前に無かったので、非常に不思議な違和感のバランスの映画だったと思っていたが、これは偶然出来たバランスではなく、狙って作られたものであることを確信した。
本記事では目次設定で3章目からいきなり5章になる様に記載したが、目次に出ないように4章を設定してある。
目次のタイトルからしてネタバレとか言われそうなので、情報入れたくない方は注意してください。
1.調べなくてよかった......
さて、 私は調べるのが好きだ。
いわゆる予習。ネットを漁り、パンフを読んだり。
出演している人は誰なのか、過去作はどんな物があるのか、バックボーンなどなど。
やってしまいがちだ。時々、思いもよらない、記事を引き当てネタバレに近そうな話を見てしまったり、聞いてしまったりすることもしばしば。。。
さて今回いい意味で、調べなくて良かった。いわゆるジャケ買い的なノリで鑑賞した映画だったので、そこまで積極的に調べず鑑賞した。
これから鑑賞する方は情報も可能な限り入れない方が良いかもしれない。
2.退屈で単調で面白い
ストーリーはシンプルだ。
ホラー映画でよく見る、特定の場所からループし脱出できなくなる系。
パッと思いつくは「イン・ザ・トール・グラス -狂気の迷路-」「アイデンティティ」とかかな。もっとある気がするけど、、、
上記2作は言うなれば、入ってはいけないやばい所に入り、抜け出すために試行錯誤する。その試行錯誤っぷりが面白い。或いは逃げても、逃げても、何故か近づいてしまう。そういった所を楽しむ作品と言って良いと思う。
そう。非日常に放り込まれたら最期、単調ではいられないし、正気でいることも出来ない。
では、そんな正気でいられない筈の空間に一見安全で住みやすい家があったらどうだろう?
そして一人ではなく、恋人や妻などのパートナーが居たらどうだろう。
きっと人間は、部分的には非日常にいながら、日常を勝ち取ることができる。
ビバリウムは特別な空間、非日常で日常がすごされる。
そして、そんな非日常のループする空間の中に、見知らぬ子供が届けられる。
主人公二人と子供のやり取り、長く付き合ってるカップルならあるあるなやり取り、鑑賞者達にどこか思い当たる節のある事が起こり続ける。
それも日常の中の幸福な部分と、苛立ち、不愉快に感じる部分をバランス良く混ぜ合わせ、鑑賞者はその絶妙なバランスの中から、ホラーならではの不安感を与えらる。
起きる事の多くは地味なことだ。単調で退屈である。その単調さこそが面白い。
何故なら、すでに崩壊した日常で、正気を保てるギリギリの所で、半分正気を失いながら、単調で退屈なことが起きているのだから。
個人的にはラスト含めて、結構好き。
気になっている人がいたら、すすめるレベル。
3.以下ネタバレ注意
目次にもネタバレ注意と書きましたが、以下文章ではネタバレします。
個人的には、なんの断りもなくネタバレしてくるのは本当に好きじゃないので、宣言します。
重要なネタバレをします。
もうこの作品観たって人だけ4章を読んでほしい。
4.【注意したぞ。ネタバレだと】生物的生存と幸福な人生はイコールではない
この物語は、ぶっちゃけ冒頭部分がオチと直結している。
そして、映画のタイトルもネタバレみたいなものだ。
だが一般的な単語じゃないし、調べなきゃ意味が分からないと思うので大丈夫だろう。
さて、ネタバレしていく。
散々言った。以降読むのは自己責任。
映画の冒頭のカッコウの話は、そのまま、この映画の物語そのものだ。
夫婦は家を見学し、そこに赤子が送られ、育てさせられる。
しかもその子供は人間の比較にならないスピードで成長していく。
たった数百日で立派な成人男性が出来上がる。
人ではない何かを無理やり育てさせられるのだ。
映画では主人公の二人は死ぬ。
ジェシー・アイゼンバーグ演ずるトムは恋人の胸の中で死んでいく。しかも苦しむと言うより、楽しげな思い出に浸りながら。
一方イモージェン・プーツ演じるジェマは自分が育てた何かに殺されてしまうが、トムと同じ墓(といってもただの穴としか言えないが)に入り、しかも殺される直前に「ママ」と呼ぶ人外の化け物に「あなたのママじゃない」と言い放つ。
この「あなたのママじゃない」というセリフには、ただただ生物的本能のために食事を与え、寝かせていた関係でしかなく、愛情なるものをこの子供に注いでいない。つまり、この人間に育てられたはずの怪物は人間の子供が受けるであろう愛情を受けること無く、その暖かみを味わうこと無く育てられたことを意味し、ジェマはそのように接し、最後まで情に流されることなく「ママじゃない」と言う。
これはジェマからの一つの勝利宣言と解釈した。
人間を利用し、生物的には種を残すことに成功しているこの化け物の行く末は、デスクで一人孤独に死に、キャビンに収納され、役割を交代する。
そういう循環の中でしか生きていない怪物と、場面場面では幸福を味わい、彼氏を看取ることができ、怪物に勝利宣言をすることができ、同じ墓に入ることができた主人公達。
人間を上手く利用し、生物として生存、種の存続と言う意味で勝利した怪物。
人生を括弧付きではあるが「幸福」に生きることができた主人公たち。
勝利と幸福がイコール関係でないことを表しているようで非常に面白かった。
U-NEXTで400円位。DVD購入は3,300円位。
400円だったら損はない。手元に置いてきたい人には3,300円くらいは価値がありそう。それくらいは面白い映画でした。
元は取れると思う。
5.余談
ジェシー・アイゼンバーグさんって「グランド・イリュージョン」とかで主役やったりしてるのに、今だに「ゾンビランド」とかのヘタレイメージなんだよね。
いやいや「ソーシャル・ネットワーク」とかでも主役やってるじゃん。
って言われそうだけど、「あぁ、やってたね! 天才陰キャ大学生!!」って感じ。。。
そんな印象だけど「エイジェント・ウルトラ」のアイゼンバーグさんは結構好き。
映画としてはそこそこ面白いのでお勧め。
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