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消耗していったもの達のために

自分のことについて書きたいと思う。

この文章は私という人物について、

自分自身で(もちろん分かる範囲でだけれど)少なからず理解し、整理し、曲がっていたら真っ直ぐ直し、ホコリを払い、きちんと棚に戻し、汚いものは洗い、腐ったものは迷わず捨てて、畳んで直して、

そうやって自分自身を整理して向き合ってみようと思う。

誰かの役には到底立ちそうもないけど、もしかすると誰かは私より、私のことを理解できたつもりになるかもしれない。

本当の自分を知っている人はこの世に何人いるだろう?

私は自分のことは少ししか知らない。

それは親い友人や家族が持っている私という名の情報量とあまり変わらないと思う。

そして、もしかすると私という者をきちんと整えたところでそれは整理前に見たものと寸分も変わらないものがそこにはあるかもしれない。

それでも私は勇気を出して、乱雑に散らかった自分の中に一歩を踏み入れてみようと思う。

もしかすると、捨てようと思っていたものが実は重要だったり、大事にとっておいたものが実はガラクタだったりするかもしれないし、もしくは実は全てがガラクタで、整理した後には何も残らない可能性だってあるが、


私はあえて踏み入れたい

例え、がらんとしたその場所で

一人で立ち尽くす事になったとしても。


*********************


私の今までの人生のほとんど全ては、この地球という星の空気に慣れるための時間だったと思う。

それは皆んなにとっては当たり前かもしれないことをある意味では驚きを持ち、ある意味では諦めを持って受け入れる作業だった。

例えば、朝起きて、顔を洗い、大切な人におはようと言ったり、寝る前にお風呂に入って、歯を磨いて愛する人におやすみと言ったりといった、しごく人として当たり前のことを、である。


幼い頃はおおらかな周りの人達のおかげで、少しぐらいエキセントリックであっても

『あら、まぁ』

と言って微笑ましく受け止めてもらえていたけれど、


学校、会社、一般社会、

顔のない群衆の波の中では、それは到底無理な話だった。


人々は私が出来ないことをさも当たり前のようにこなし、それが出来ない私を見ては片手で自分の口を塞いで驚いた顔を隠した。

その時、私が初めて自分と自分が住んでいるこの星との距離を感じたことは言うまでもないだろう。

私はその何万光年とかなり遠い距離に気がつくと、まずそれまでのびのびと伸ばしていた手や足を少しずつのろのろと亀のように引っ込めてなるべく目立たぬように自分の身を守った。


そして、夜の静寂の中を忙しなく行き交う星座達のように思考を巡らせた。

自分とこの星に若干の思考の開きがあるにせよ私はこの星で生きていかなければならない。

その為には私はこの星のルールを学ばなければいけないのだ。と。


ルール。

社会のルール、テニスのルール、執筆のルール

そいつはその姿を見せないくせに、確実に存在し、ただ道を歩いているだけの私に真正面からぶつかってくる。

さらに、高圧的な態度で私に自分のことをまともに知らないなんて、なんて困ったやつなんだ!などと叱ってくるのだ。

私はそう言われるたびに目を丸くしてただただ子供のように固まってしまうのだ。


私はそんな姿こそ見えないそいつらとどうやら面と向かって生きていかなくてはならないらしい。

この星で生きるということは、目に見えないそいつらとある程度握手して仲良く暮らしていかなくてはならないのだ。そう理解した。

だがしかし、そう考え至ったところでその種類も多く目に見えない複雑なルールをわざわざ紐解いて教えてくれるような、親切な人は私の周りには誰一人としていなかった。

私の周りの人たちは常に自分のことに忙しく、そしてこの星のルールは体得しているのが当たり前であると考えていたからである。

考えあぐねた挙句私はとりあえず他人の真似をすることに決めた。それが一番ハズレがなく確実にこの星を生きる上での近道だと考えたのだ。

それから私は少しでもこの星の人間ではない事を気づかれないように振る舞った。

それはまるでスパイのように。息を潜め、姿を消し、情報を収集し、密かに実行に移した。

ある時は成功し、ある時は失敗したが、それが確実に自分の血となり肉となるように少しずつ肉付けしていき、余分と思われるものは削ぎ落とし、それはまるで精巧な彫刻を作り上げるかのように、私は何十年という歳月をかけて完璧なこの星の住人でという虚像を作り上げた。

そしてこの星の人間と結婚し、子をなし、育て、さも元からこの星でのルールを熟知した人間であるかのように我が子にこの星においての目に見えぬルールを偉そうに解いた。

そう、私はどこから誰が見ても完全にこの星の住人になったと思い込んでいたのだ。


だがその一方で、

この星の住人に近づけば近付くほど、私の中に確かに存在していた筈の何かが確実に消耗していくのも感じていた。

それは幼い頃に感じたある種の輝きだったり、感動だったり、他人から見れば他愛もないくだらないガラクタなのだが、確実に自分の内側を作ってきたもの達。

そんなかつて輝いていた何でもないもの達が一気に色褪せ、輝きを失っていくのを感じていた。それも当然だ、全て私自らがその場所をまるで最初からなかったかのように真っ白に塗り潰し、新たに学んだルールとやらを埋め込んでいったのだから。

そこを潰して埋めていかないと新たなルールを自分に埋め込むことはできなかったのだから。

皆んな、そうしている、そうしないとこの星の人にはなれないのだから。

そうやって完璧なこの星の住人としての

私が出来上がったはずだった。



そこまでが取り敢えず私の今までの人生だ。


そして、私はそれで良いと思っていた。

それが、正解だと思っていた。



今までは。



だが、それは突然起こった、

いや、本当はもっと昔から、

そのガラクタ達に蓋をした時から起こっていたのかもしれない。

私はそれを見て見ぬ振りをしていた。かつて繁栄したアステカの都市のように化石となって消耗してしまった者たち。否定しないと日常生活に支障が出てしまうと蓋をして閉じ込めた者たち。

その色褪せ消耗したもの達が、ある日突然私の内側から私を激しくノックし始めたのだ。


knock!knock!

ドン!ドン!


おい!目を覚ませ!

お前はこの星の人間なんかじゃないだろ。

見て見ぬふりするなよ。

ちゃんと見ろ。

見て見ぬ振りなんかしないで、

ちゃんと向き合えよ!

と。



『その者たち』はまるで借金取りのように私の内側にあるドアを否応なくノックした。まるで私が今まで放置してそこらへんにばら撒いてしまったものを取り立てに来たように。


今度はもっと強く。


knock!knock!knock!

ドン!ドン!ドン!


ここにまだいるぞ!

消えてなんていないぞ!!

早く出してくれ!!!


knock!knock!knock!knock!knock!

ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!


その声、その響き、

私は息苦しくて仕方なかった。


被り物。

それは、自分に蓋をし

幾重にも重ねてきた私の虚像。


私は耐えきれず泣き出した。

泣いて泣いて泣いて

涙と共に長い年月ををかけて形成してきた完璧な虚像があっけなく泥の塊のようにボトボトと剥がれ落ちて行くのを感じた。

もうダメだった。あれだけ時間と労力をかけた虚像は崩れる時は止める間も無く呆気なく崩れていく。


自分自身もう耐えられなかった。

自分に嘘をつくこと

そして、その嘘を本当だと思い込む事も。

私はこの星の住人になんかなれない。

フリはできても私は私なのだ。



そして、三日三晩自分の体が乾いてしまうのではないかと思うほど涙を流し、


私は私に戻ることを決意した。



今まで身につけて必死になって積み重ねたもの達を1枚1枚薄皮を剥くようにゆっくりと剥がし、綺麗に洗って、丁寧に畳んでしまって、消耗し、色褪せて、散らばって放り出されたガラクタ達をもう一度ひとつひとつ拾い上げ、集めて、丁寧に磨いて、輝かせて、ちゃんと自分の棚に戻そうと思う。



そう、それがこれからの私の話。

その道のりは程遠く、複雑で、険しいかもしれない。

それでも、戻るのだ。

最初は慣れなくて動きは鈍くもたつくかもしれないけれど、慣れてくればもう少し早くできると思う。

これからどうなっていくか不安はあるが、進もうと思う。


私は私に帰ろうと思う。


以上が私自身の話だ。

誓って言うが、至って真面目な話で全くの嘘はない。

言葉は抽象的、かつ比喩的で分からない部分も多く、理解できない部分も多いかもしれない。


だけど、それは仕方ない事だ。

どんなに激しく訴えたところで、自分のことさえなかなか理解できないのに、さらに他人のことなんて完璧に理解できる人間なんて多分この世にいない。

そして、理解できたと思ってもそれはやはり虚像に過ぎなかったりもするのだ。


だが、それでもいい。

こんな形で申し訳ないが、私は私という人物を曝け出して進もうと思う。

そしてどこまでやれるか分からないけれど、

私と同じ沢山の本来の自分を閉じ込めて、消耗させてしまった人達の為に、

同じように、色褪せて、放り出してしまったガラクタを取り戻すために。


私はこれから戦いたいと思う。





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