自作解題『魔術師を殺せ!』

シャカミスに提出した犯人当て『魔術師を殺せ!』の解題、もとい覚書です。


以下全編ネタバレ。ぜひチャレンジしてみてください。






①着想
 タイトルはもちろん、ランドル・ギャレット『魔術師を探せ!』に由来します。『魔術師を殺せ!』という圧の強い題を思いつき、いつか使いたいなと思っていました。
 しばらくして、藤本タツキ『チェンソーマン』を読みました。7,8巻の闇の悪魔編がお気に入りで、「チェンソーマンみたいなミステリ」を書きたいと思いました。その発想が『魔術師を殺せ!』というタイトルと合流したのが発端です。

②舞台設定
 まず「魔術師」なるものを考えなくてはいけません。実際の魔法使いというよりは、異名とした方がしっくり来ました。では「魔術師」となる者はどんな存在なのか——不死、という案を思いつき、「不死なら殺せばそれだけで謎になる」という安易な気持ちでそう設定しました。
 『チェンソーマン』の闇の悪魔編では、主人公・デンジが各国の刺客に狙われ、戦いの舞台はデパートに移ります。それを踏襲すべく、魔術師が諸外国に狙われる筋立てとしました。デパートはどこが良いかと考えていたとき、手元にあった正井泰夫監修『図説 地図で暮らしを読む東京の昭和』(青春出版社)に、こんな説明を見つけました。

その年(引用者註:昭和44年のこと)、西口の駅ビル解体のため、東武経営の旧「東横」デパートも姿を消す。

 まさに求めていた舞台が! ということで時代を昭和に設定し、旧東横デパートを戦場とする運びとなりました。ちょうど、現代からずらした時期で描きたかったので僥倖でした。
 次に、刺客、味方を特異な能力者で埋め尽くすことにしました。こちらは米澤穂信『折れた竜骨』の影響が大きいです。各人物が異なる技術や魔術を持つ中での謎解きに、憧れがあったからです。
 加えて、拙作は「バトルミステリー」としようと決めていました。この単語は『劇場版名探偵コナン 漆黒の追跡者』の予告で登場したもので、極上エンタメのような響きを持っていたので、いつか書いてみたいと思っていたものです。
 そこで「異能力者達の混戦の中での犯人当て」というアウトラインが完成しました。それぞれの能力の由来までバラバラにすると煩雑なため、「契約者」という設定を導入することに決めたのも、このときです。

③人物
 語り手が必要なので助手の「私」を用意しました。やや勝気なキャラになったのは書いている最中にその方がやりやすいと感じたので、作り込みはあまりされていません。
 最初に思いついたのは狐警部という名前でした。名前が狐なら妖狐と契約すれば良いじゃん、と思い設定が完成します。マキマから逃れられなかったため、既視感のあるキャラになってしまいました。ただ、少し人間味みたいなものは付け加えたつもりです。「狐(コン)・ゲーム」という題も使いたかったため、ちょうど良かったです。
 次に中国の煬姉妹。こちらは、「憎」と「愛」の姉妹にしようと決めていました。「歜」は古い中国語で、激しく怒るという意味です。何より「チュチュ」という響きが気に入りました。「疯」は「気が狂っている」という意味で、相手を狂わすことへの含みから名付けました。
 残りのメンバーは書きながら構築していったので特別な由来とかはないのですが、公安組・魔術師、「私」の苗字は京都の地名から取りました。刺客として想定したのは「正面突破してくるやつ(煬姉妹)」「物量でどうにかするやつ(舘宗光)」「万全の準備をしてくるやつ(オリガ・ガルドロフ)」「身内に潜伏して暗殺を狙うやつ(萩原月美)」「訳のわからない術で全部めちゃくちゃにするやつ(クルド)」でした。
 海外のキャラが多く、台詞での描写ができない分、舘にはたくさん喋らせました。結果、「くされ陰陽師」となってしまったのですが……。
 余談ですが刺客がクルドを除いて社会主義国から来ているのは、特に深い意味はありません。ただ、「国が多すぎるとキャラ捌き切れないから、西側陣営はなんやかんや刺客を寄越さなかったことにしよう」と思ったためです。

④謎解き
 とにかく「不死の人間をいかにして殺したか」を考えなくてはいけません。思いついたのが、解答篇でも採用されている「同じ命ばかり食べていたため、他の命を受け付けなくなった」です。これなら不死鳥の設定ともマッチするし、「誰かを殺した後に犯行が可能であった」というロジックも組めます。狐警部による幻覚を思いついたのも同時でした。
 次いで、幻覚による前提の変化→偽の真相が成り立つよう、ロジックを作りました。シンプルですが、「魔術師(幻)に殺された人間」というのは真っ先に除外される容疑者なので、こちらを犯人にします。
 前半のバトル描写がただのバトルに終始しないよう、なるべく伏線は分散させました。
 当初は「ガルドロフは義手なため刀を握っても出血しない、よって犯人ではない」というロジックを考えていましたが没になりました。供養。
 想定より上手くいった点があるとすれば、ロジックの大半が特殊設定絡みとなったことでしょうか。特殊設定に起因する独自の論理が好きなので、嬉しかったです。

⑤構築
 いきなり話を書くのは大変だったので、解決篇から書き始めました。乙訓七瀬に(最終的には削りましたが)事件のあらすじを語らせて、推理をスクラップアンドビルドして、最後に再調整、というふうにしました。
 一人称なため乙訓不在の戦いをどう描こうか悩んだ結果、伝聞の体で由良の視点を混ぜることにしました。その結果由良は大変酷い目にあったわけですが。戦闘中の文は芥見下々『呪術廻戦』を参考に書きました。
 推理の関門を三つ用意していて、①魔術師殺害方法、②凶器にまつわるロジック、③乙訓の色覚についての気付き、というふうにしています。③がもっとも分かりづらい、とするのが理想でしたが、描写を抜きすぎるとアンフェアなため少しあからさまになってしまったのが心残りです。由来視点を入れることで色の描写が可能だったので、そこで多少はカバーできていることを祈ります。過去のシャカミス推理会に参加して、「発想力があり鋭い」「観察力があり伏線を拾える、違和感に気づける」「ロジックを詰めるのが上手い」のどれか(もしくは複数)をみんな持っているなと思いました。そこで、三要素コンプしないと真相に辿り着けないよう設計しました。多重解決になったら面白いな、という期待も込め。
 ①は不死鳥の契約者と因縁のある人物に語らせれば良かろうということで、舘をそれに選びました。元より日本語を解する刺客が少ないためでもあります。②については戦闘描写に伏線を仕込み、③は全体的に、という配分になりました。
 そして狐警部の計略について。これはホワイダニットなので論理的な推理が難しい箇所です。動機への伏線がノイズとなって犯人当てを邪魔する可能性もありますが、物語性を排除したくなかったのでそのままにしました。それから、幻覚を見せる必然性がないと流石に困るので、そのために考えたものでもあります。他にも登場人物の過去に通ずる話を出して、「推理にはノイズだけどこれ出さないと必然性とか味気とかなくなるしな~~」ってなりました。犯人当てで毎回悩むポイントです。

⑥章題・引用
 『魔術師を探せ!』『折れた竜骨』『チェンソーマン』はこの作品の源流とも言うべきものなので、引用しようと決めていました。Ado/阿修羅ちゃんを聴いて、そういえば舞城王太郎に『阿修羅ガール』なる作品があったなと思い、そこから歜歜、疯疯のヒントを得たのでこちらも引用しました。
 高橋留美子『めぞん一刻』からは、犬嫌いの男に海で犬を突き出すという倫理観の欠片もない「潮漬け犬」を。百貨店を舞台にしたミステリということでエラリー・クイーン『フランス白粉の秘密』を。それから、ひとり嘘つき(犯人ではなく狐警部)がいるぞという遊びを込めて、ゲーム「Among us」の一文を引用しました。元より状況を把握しつつリアルタイムで嘘をつくというのは、人狼ゲームが好きなため描きたかった話でもあります。
 アニメ「チェンソーマン」EDに大好きなずっと真夜中でいいのに。が起用され、残機という曲からも一節を借りました。執筆中はずっとこれを聴いていました。また、どこからどこまでが現実か、という含みを込めて謡曲の胡蝶の夢からも引用を行いました。
 章題の「182」はスラングで「I hate you」を、「xxx」は「kiss kiss kiss」を意味します。それぞれ、歜歜と疯疯をイメージしたものです。6章だけ後半まで題が決まらなかったのですが、舘があまりにもクズだったので「くされ陰陽師」としました。気に入っています。
 「One player left!」はゲーム「スプラトゥーン3」のサーモンランというモードで、プレイヤーがラスト1人になったときの表示です。「そしてひとりだけになった」みたいで好きです。「蝶を夢む」は萩原朔太郎の詩から。「正しい偽りからの起床」はずっと真夜中でいいのに。の1stEPのタイトルです。偽の解決からの脱却とかなりマッチしていると思い、これにしました。

終わりに
 長々と書きました。こうしてみると、今まで摂取したコンテンツをフルに活用した犯人当てという気がします。物語として楽しめる、を目標に書きました。
 お読みいただき、ありがとうございます。

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