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私と「アンパンマン」とのファーストコンタクト

 そうでした。
 私のアンパンマンとの初遭遇は、成人後のことでした。

 大阪市東淀川区の寮を退職を機に去り、次の住処として藤井寺球場裏の公団で暮らしていた時期のことです。
 OL暮らしから、興味本位で就職した大型小売店(ダイエー)の専門店街の婦人服店で知り合ったお客様とお友達になり、その方のご趣味の演劇鑑賞に誘われた時のことでした。
 いろんなジャンルのお芝居に連れていっていただきました。
 中島らも率いる劇団のお芝居の終わりには、雑誌「ぴあ」の広告つながりでなのか、食品メーカー「かねてつ」のちくわが舞台上から観客席に向かって上棟式の餅撒きのように投げられるという企画でまずカルチャーショックを受け、劇団新幹線と第三舞台のコラボタイトルで関西ローカルのテレビ番組でおなじみの顔を生で見てミーハーな自分に気づいたり、笑っていいとも!にレギュラー出演していた東京乾電池のテレビ的には「いじられ枠」の男性キャストの二人芝居で感動の涙を流したこともありました。
 ロックな生き方をしているお客様らしいセレクトで、非常に楽しい経験をさせていただいたのですが、「今度はこれを見に行こう」とお誘いいただいたのは、加藤健一事務所という今までとは打って変わったお堅い感じの劇団名のお芝居でした。座長の加藤健一さんと客演の戸田恵子さんが主役の夫婦役をされた、フランスの脚本家のシナリオです。ユニークな登場人物たちが入れ代わり立ち代わり、たくさん笑わせてくれたコメディ作品だったと記憶しています。
 その舞台鑑賞中に、ふいに戸田恵子さんが「アンパンマンの声」でセリフにアレンジを加えたアドリブをされ、その途端に周りの観客がドッと大笑いしたのです。
 が、私には意味が分かりませんでした。
 なので、隣で鑑賞しているお客様にこっそりささやきました。
「なんでみんな笑ってるんですか?」
「あの人な、アンパンマンの声の人やねん。知らんの、アンパンマン?」
 こくりとうなずくと、「そっか、しゃーないね」と苦笑されて、また舞台へと視線を戻されました。
 お芝居自体はとても面白く鑑賞できて、カーテンコールでの演者の皆さんの晴れ晴れとした姿を見て、誘ってもらってよかったと思いました。
 ただ、この時の私はアンパンマンを知らなかった。
 昔、ガンダムを見ていたのに、アムロが憧れたマチルダさんの声をこの女優さんが演じていたことも、ずいぶん後になって知りました。
 あの時の私が演者さんのバックボーンまで知っていれば、もうひとネタかあるいはもっと、深くこのライブ体験を楽しめたのだろうな……という、ほんの少し悔しい気持ちも残った経験になりました。

 私にとっては、知識はそれ単体ではなく他の情報と有機的に結び付くと面白さが爆発的に大きくなるのだろいうという体験でしたが、逆に自分も「元ネタが分からない人」に対して反射的に冷たい態度をとったり、露骨に見下したりしないようにもしたいものです。

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