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望まぬ夢

好きな作家はいるだろうか
私は夢野久作の作品が好きだ

昭和の文豪に分類されるのだろうか
よく探偵小説にカテゴライズされている書店やサイトも見かける
三大奇書、ドグラ・マグラの作者と説明したら
ピンとくる方もいらっしゃるかもしれない
別にあれを読破したところで狂いはしないので
安心して大丈夫
ただチャカポコを乗り越えたのだな、と
仲間意識は持ってしまうかもしれない
ドグラ・マグラを読破したと言いたいがために
チャカポコを乗り越えたのなら
それはもはや狂気かもしれない
チャカポコとはなんなのかと不思議に思われた方は
夏の一冊に加えていただけたらこれ幸い
ただし私は一切の責任を負わないのでよろしくお願いします

夢Qの話に戻ろう
彼の作品のどこが好きなのか

か細い、けれども絶対に消えない図太さ
ひんやりしているのに、奥底に敷き詰められた赤々とした鉄のような熱さ

彼の作品がもつその雰囲気が好きだ
読み終わった後いつまでも余韻が残る

一見、硝子細工の様に繊細な文章
もはや触れたら崩れて溶けてしまう飴細工
その儚さに誘われて
うっかり、さらに奥に手を伸ばすと
熱された強化硝子であることがわかる
油断して触れると火傷しそうな鋭さ

初めて読んだ作品は
瓶詰地獄
タイトルからそのまま地獄のような
いろいろな考察もあるがどう捉えても
どうしようもない状況
確かに描かれている状況は
地獄に近いのだろう
時が過ぎていくのを眺めていくしかない2人
あの2人に残された手段は待つだけ、もしくは

どちらにしろ八歩塞がりもいいところなのである
地獄と称しても差し支えないだろう
しかしあの作品を読み終えた後なぜかあの2人はきっと幸せなのだろうと感じるのだ

揺れる木々、島を駆け抜けていく風
足にまとわりつく砂浜の砂粒
風に吹かれる髪をくぐってその先を見つめる瞳

嫌だ嫌だと願いながら、おそらくその状況を望んでいる
あの2人も望んであの状況を受け入れている
本当に嫌なのなら拒否したらいいのだ
行動に移すこともできるだろう
瓶の蓋が開かれていたとしても
果たしてこの2人は出てきただろうか

きっと2人は置かれた状況が自分達にとっての幸福だと
どこかではわかっている
夢野久作も理解したうえで書いていたとしたら

そんなことを堂々巡りの如く考える時間も込みで
私は夢野久作の作品が好きだ
好きというより癖になっているのかもしれない

望まない夢の中毒者
扉の開いた籠の中で休んでいる一羽の鳥
深淵から伸ばされた手を怖いもの見たさで
また眺めに行こうか

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