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[第013話]兎角この世は清風明月

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【清風明月】
読み:せいふうめいげつ
意味:夜の静かで清らかな佇まい。「清風」は爽やかな風、「明月」は清く澄んだ月のこと。
(参考:日本漢字能力検定協会『漢検四字熟語辞典』)
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私の好きな曲の話。というか、半分は #思い出の曲 の話でもあります。

「月光」ソナタ第1楽章。
当時30歳のベートーヴェンが、1801年に作曲したピアノソナタです。第2楽章も第3楽章も好きですが、私は第1楽章のあの物憂げな三連符が好きなんです。
映画やアニメでも時々使われていますので、「聴けば分かる」という方もいらっしゃるのではないかと思います。「名探偵コナン」では、「月光殺人事件」というエピソードで使われていますし・・。

幼少の頃、私はピアノを習っており、何度か発表会にも出ていたのですが、この曲は私の最後のピアノ発表会で演奏しました。
基本的には、レッスンのレベルに合わせて曲を選んできたのですが、この曲だけは「どうしても弾きたい!」と言って弾かせてもらいました。「なんでそんな暗い雰囲気の曲を選んだんだ」と言われた記憶もあるのですが、発表会で暗い曲を弾いてはいけないという決まりはなかったもので・・。
何がそんなに私を駆り立てたのか、今となっては明確なきっかけはあまり思い出せません。おそらく家族の持っていたCDを借りたんだろうな、という気はしていますが・・。

この曲は自分のピアノ人生(10年ちょっとですが)の中でも、たぶん一番練習したのではないかと思います。
もともと、気に入った曲は何回も何回も弾くという性格だったこともあってか、右の指を攣りそうになることがあったものの、この曲は割とすんなり弾けるようになりました。暇さえあれば「月光」を弾いていました。

さて、発表会当日。
だいぶゆっくりめに、7分くらいかけて弾きました。一音一音噛み締めるように、三連符に主旋律がかき消されないように・・などと考えていたわけではなく、単に間違えないように慎重になりすぎていただけですが。
家族がビデオを録ってくれていたのですが、「あんたの演奏、だいぶゆっくりで腕がプルプルしたわ」と言われました。ごめんね。

ところが、発表会の後に私はこんな話を聞きました。

映画の『戦場のピアニスト』が好きな家族が、あの『月光』を聴いて涙していた・・。

びっくりしました。まさか自分の演奏が誰かの感情を揺さぶるとは。
私自身も、音楽を聴いて何だか感情を揺さぶられるような経験をしたり、心に何かが突き刺さる感覚を覚えたりするようなことはあります。そういう経験や感覚って、「何でか分からないけれど心に残る」という割と抽象的な感じで、言語化しにくいからなかなか人には伝えにくい、伝わりにくいもの。
私の演奏を聴いたその方に「私の演奏のどこが良かったんですか?」と訊ねられたとしても、きっと具体的に「ここ」という回答は得られなかったかもな・・という気がしています。
あれからそれなりの年月が経ちますが、今でも「月光」を弾くとあのときの発表会を思い出しますし、「月光」を聴いて涙したという方のエピソードを思い出します。

とても散文的な記事になってしまいましたが、まあこんな日もあるということで。

(2024/01/11)

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