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あの車両で待ち合わせ

若さ故、一度小さくすれ違った心は戻れない。ちょっとだけ切ない思い出話。


17歳の春。
春だけど、男子校通いには嫌な先輩が卒業して、生意気な後輩が出来ただけだ。これと言った春らしさはない。
春を迎えたければ、やはり彼女を作るしかない。

男子校で彼女を作りたければいくつかの道がある。

① 女友達又は彼女がいる奴に紹介してもらう
② ナンパする
③ 男で我慢する
④ 脳内

出展:Me

大体この4つしかない。昨今のマッチングアプリなんて、まだネットそのものが無いから存在しない。
多分、まだジョブスがアップルでせっせとPCを開発してる最中の頃で、
世の中はまだ、電話線以外に繋がっているものはない時代。
事実、冴羽遼を呼び出すには、新宿駅の掲示板にXYZと書かないとダメだ。

そんな折、しつこく紹介希望をしていたら会ってみないか?と言われて休みの日にダブルデートをした。
それだけでも可愛らしくて目が糸くらいに細くなりそうな光景だが、紹介してくれた子は礼儀正しく、話してるだけで賢そうなのも良く分かった。
お陰で話も弾んだ。
眩しいくらいに良い子だった。キラキラしてた。

後に、その子は学園で主席の才媛。東大現役合格間違いなしで、更にお父様も良い所にお勤めと言う事だった。
正に才色兼備。

その場で連絡先交換もアリなのだが、基本的にはお見合いと同じシステム。解散後主催者に意志を伝えて、お互いの意思が一致してたら教えると言う、何ともしっかりした約束事だった。

なんと、今で言うマッチして連絡先交換も進み、さっそく電話で話した。
と言っても、今となっては伝説の家電話にかける緊張のアレだ。
お父さんが出たらガチャ切り必須のアレ。

こちらも親の前、相手も近くに親がいるはず。コードレスフォンも出始めていたが、持っている家と半々ぐらいだと思う。
我が家にはなくて、せめてが電話線が延長されてた程度。

そんな中、聞けば電車通学。あちらが乗っている電車に私が途中駅から乗る事が判明した。
そこで、何時の何両目の前から何番目のドアで、と約束をした。
そう、

あの車両で待ち合わせ


通学時の逢瀬である。
その場に行くまでは、からかわれてるかも知れない。
遠くで、仲良し女子高生たちが一緒に居て、
「何アレ~本気にしてる~キモィ~」の可能性はゼロじゃない。
自己肯定感の低い人間の脳内は、いつも同じだ。
相手も同じ様に思ってはいたらしいが。
だとしても、二人の行動は本当に可愛らしい。

そして、運命の瞬間

ちゃんと彼女はそこに居た。
たった10分程度だが、一緒に登校した。
終着駅で私はスクールバスに向かい、彼女は歩きなので見送ってくれた。
当然、悪友たちに一部始終を見られていたのもあって、散々いじられた。

そして、勘違いから始まる悲劇


私がその日に指定したドア位置は普段乗る場所より、いくつか後ろだった。
しかも、彼女は今まで一本後の電車に乗っている事を教えて貰ってた。
だから、私は電話での約束はデートのそれと同じで、1回限りだと思っていた。次の約束が必要だと勝手に思っていた。
元の場所に私は翌日から戻っていた。
彼女は今まではもう1本後に乗っていたのに、あの日から毎日会う為に早い電車に乗っていた。なんていじらしい子なんだ。
毎日同じ車両のほんの数十メートル離れた場所に二人は居て、お互いにお互いを探していたことになる。
混雑していた電車だし、彼女は小柄だった。

そして、悪い運は重なるものである。

私は、その女子校に通う中学の時の同級生に車内でばったり会った。
久しぶりだったし、そのまま駅の改札まで話しながら歩いた。
そして、その子は背が高いのだ。とてつもなく目立つ。

そう、いくつか後ろのドアから降りた彼女は、私とその元同級生の女の子が連れ立って歩くのを見てしまった。

数日後、彼女から電話があった。
開口一番、「どう言う事?バカにしてるの?」と言われた。
そして、あの日からずっと同じ所で待ってるのに、どうして来てくれないの?何か悪い事言った?嫌いならそう言えば良いのに、と説明のヒマもなく言われ、圧倒された。
その後、事情を弁明するも信用はしてくれず、次の約束には応じてくれなかった。
わざとではなくとも、やはり相当プライドが傷付いた様だった。
どうして主席の才媛が、私なぞにそこまで思って頂けたのか、全く今も分からないままだが、きっと女の子の世界には色々あるのだろう。

その後、帰りに何度か駅ですれ違った事があったが、遥か遠くからとてつもない憎しみを込めた目で見られてた。
「お前を睨んでる女の子いたぞ」
と、しばしば言われ、その様子を見ていた友人たちは、
私が一体どんな悪い事をしたのかと、面白がっていた。

そして、紹介をしてくれた人から追い打ちをかける言葉を聞くことになる。
「あの電話で怒っちゃったけど、もしもう一度電話が架かってきたら許そうと思ってた。自分もきちんと確認してたわけじゃないから。
でも、1週間待っても来なかったからもう諦める…」

あの怒った表情は、きっと他の女の子と歩いてた事じゃなくて、もう一度電話くれなかった事へなんだ、と初めて理解した。
嫌って去って行かれたと思ってたから、痛手を負ってなかったのに、
結局、泣かしてしまった事を知り、更にもう戻れない事を知り、
めちゃくちゃ凹んだ。

ほんの小さな思い違いが、どんどん広がって。
歳を取ればまあ良いか、と受け流せる様な事にもエネルギーをぶつけ過ぎて。手遅れになってしまった。

と言う、成就しないラブストーリーでした。
たまにはいいでしょ?

ふふふ。




自己肯定が爆上がりします! いつの日か独立できたらいいな…