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学生時代の思い出【寮その1】

それは関西で未曾有の大震災があり、東京ではサリン事件、その後の麻原が逮捕された時だった
関西に大学入学の為に出てきたが、1年目は入学金の都合もあり一人暮らしをさせる余裕がない我が家は、息子(私)を学生寮へ入れた

私は男子校の出なので、男だけの世界には既に免疫ができており、
前後左右上下三次元に存在するのが男だけ、と言うのはさほど問題ではなかった

ただ、大学と言うのは原則が自治であり、ともすれば自治とは無法であるとの境界線があやふやにもなるものだ
特に大学生の若さであれば
そんな中からいくつかエピソードをご紹介したい

西郷どん

学生寮は当然だが、ペットは禁止である
そもそも常に腹が減り、夜に与えられる寮食では足らず夜中施錠後に非常階段を使い、弁当を買いに行くような食欲中枢のぶっ壊れた学生に、何かを世話する余裕はないはずだ
寮はフロアと棟によって班があり、班長は残留の2年生以上が務めることになっていた
我が班の班長は特別いい加減な人で、毎晩毎朝の点呼は本人が廊下で
「全員います!」と叫ぶだけで誰一人部屋を出て、返事をしたことがない

そして、ある日学校から帰ると廊下の奥に見慣れない生物が座っており、
皆が取り囲んでいた
茶色い毛…
いやいや、寮には毛深い男も多いがさすがに犬であることは分かった、
しかしどこから迷い込んできたのか?
撫でている班長に聞くと、
「首輪も付けず道を歩いていたので拾ってきた、飼う」
班長が壊れているのは食欲中枢だけではないらしい
そして、こう言う時だけ班長の強権を発動し、全員から数千円のカンパを強制徴収し、餌を買ってきていた

大人しい犬は、突然現れた濃い目の雄ホルモン臭と、他の臭いが嗅ぎ取れなくなる程の男臭いの集団に怯えていただけではなかろうか
ずっと隅っこから動かず、尻尾も振ってはいなかった

だが、自治の名の下に無法な、そして寮内に響き渡る我らの班の傍若無人っぷりは有名なため、それから半年以上我らは犬と共に寮生活をした
犬を連れ大浴場に現れ、毎日散歩に連れてゆき
ある時は女に振られた男の部屋に引き取られ一晩を過ごし
またある時は廊下にうんこをした
班長同様に自由だった

班長が翌年寮を出たときに、犬は引き連れてアメフト部のあの体格で
look like a 西郷どんとなったのか、それとも後輩に押し付け引き継いだのかは聞いていない

夏のある日

それは、夏休みが終わりに差し掛かり実家に帰っていた者たちが戻ってきて、活気を取り戻し始めた日の夜だった
班のとある男は今で言うリア充で、夏の間ずっとバイトと彼女の家でいちゃついていたらしい
そこで、彼女とした花火が残っているのでやろうと持ち掛けられ、
外に出たまでは良かった
我らの寮はコンプライアンスなど英和辞書で蛍光ペンを引いたことのない時代であり、学生ファーストの考えも欠片もなく、
暖房しか用意されず、夏は男臭と湿度の高いのサウナのようだった
その為、網戸もない廊下の窓も、それぞれの部屋のドアも全て開放しっぱなしであった、それが悲劇の始まりだ

こんな男たちがまともに去り行く夏を偲ぶような花火遊びをするはずもなく、いつの間にか追加された大量の花火が置かれ、
寮の駐車場でただの暴徒と化した集団が火をつけあって遊んでいる様にしか見えない状況だった
何故か最後に大量のロケット花火だけが残り、人に向けるなと書いてあるがあたかもその為に作られたかの如く、いつの間にか二手に分かれ、
ロケット花火を互いに打ち合う状況になった

そして悲劇は起こった

その内の一発が廊下の窓から、さらに運の悪い事にその先の部屋のドアは解放されており、部屋の中に入ったのだ
パン!と最後の破裂が終わり、数秒後
数百人が暮らす寮内全体に火災報知器が鳴り響き、各廊下で逃げ惑う足音とドアの音
遠くに寮長の避難を呼びかける大声が聞こえ、前庭に集合させられた
当然、全員最初に揃っていたのは我が班である

事情を話し、明らかに侮蔑と怒りの視線を集めた我が班は朝までロビーで怒られ、後日雁首揃えて学生課に謝罪に行った
前代未聞と言われ、その後学内にまでその噂は広まった
とてもその班員だとは言えず、「へーそう」とだけ答えていた…

男の嫉妬

当時はまだ携帯電話は珍しく、宇多田ヒカルが歌詞に残した遺物
ピッチ(PHS)がやっと手に入る時代だった
まだまだ固定電話が残り、ポケベルがコミュニケーションの主流の時代だ

そんな中、私にも学生時代の春が来て彼女が出来た

今の若い方々には想像できないだろうが、実家からの電話や彼女からの電話は寮務室の他人が一度取り、館内放送で号室と名前が呼ばれ、
廊下に置かれている共用電話で話すのだ
回線は数百人に対してわずかに4本
だんだんと彼女いる率が高まってくると、回線の取り合いになる
特に19時以降がゴールデンタイムとなり、22時の消灯まで延々と呼び出しが続く

一応ルールでは一人15分以内、だか30分以内だかと決まっており、
それを過ぎると館内放送で
「何番の〇〇君、電話を切ってください」と連呼されることになる
呼び出しの頻度も伴って、よく掛かってくる奴がだんだんと周知されていく

そして、私が男の嫉妬のターゲットになった

放送で呼ばれ、電話に行くといつも切れているのだ
何度も何日も続いたので、彼女にお願いをして犯人を捜すことに

館内には6台しか共用電話機はない
だが、そいつは上階の奴だった
呼び出し前に上階の電話近くに隠れ、呼び出しと同時に部屋からダッシュで
出てきたその男は、受話器を取りすぐに切った

なんて暗い青春なんだ…

満足げにスリッパを響かせて部屋に戻るその男を強制的に我が班に拉致お呼びして、泣かせて話し合って終わった
あいつは毎日、それくらいの時間になると耳を澄ませて、私が呼び出されるのを部屋でじっと待ち、
呼ばれた瞬間、走って行ったのだろう
男の嫉妬とはどの様なものか、実体験した出来事だった

最後に

今を思えば何事もまだ緩い時代で、適当だったが故の出来事ばかり
バカばかりの我が班だったが、どこよりも結束は強くまた優しい奴らばかりだった
女に振られたと聞けばそいつの部屋で飲み明かし
腹が減ったと言えば、部屋で鍋をして全館のブレーカーを落とし
帰ってこない奴の部屋はいつの間にかAVとティッシュが散らばる部屋になり
シャンプーが切れれば、姿の見えない奴からちょっと借り
違法テレカを売りさばき、NTTから苦情を受けたり

熱があると言えば、食料や飲み物が枕元に置かれていく…

そんな学生寮が出る頃には大好きになってました




自己肯定が爆上がりします! いつの日か独立できたらいいな…