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航空機事故から学ぶ:道連れで2基落ちた①

編隊飛行で落ちた:1991年2月6日、第一次湾岸戦争でイラクに占領されたクウェートを奪還するため、米空軍KC-135型空中給油機(Stratotanker)90機がサウジアラビアのJeddahにある空軍基地に集結していた。Whale 05はこのうちの1機で、機長、副操縦士、航空士、空中給油のBoomオペレータが搭乗していた。
KC135はクウェートの主戦場で戦闘機へ空中給油する任務で、隊列を組んで17:25に離陸、イラク空軍のMig25戦闘機に察知されないようRITAを経由して、クウェート南方のサウジ領内で戦闘機と待ち合わせ12.5万LBsの燃料を空中給油することとなっていた。
Whale 05がFL250へほぼ達した時点で、突然に操縦桿が30-35°左へ傾き、ブルブル震え始めた。自動操縦装置をONにしていたが、110°まで横倒しとなり、突如今度は右へ横倒しとなった。機長は訓練時動作に従ってspeedbrakeを作動させると、機体は水平へ回復した。
#1と#2エンジンに火災警報が点灯し、機長はオペレータに左翼エンジンを目視確認させたところ、火災は起こっておらず、左翼前面2か所から燃料が噴出していた。機長は#1と#2エンジンを停止し、高度が下がっていくため、給油する筈だった50tonの航空燃料を投棄した。夜の砂漠へ不時着することも考えたが、高度が維持できるようになり、Jeddahへ引き返すこととした。
磁方位240°で130NM余りあり、途中でJeddah基地管制塔と交信できて、Maydayの宣言と共に、残燃料5.5万LBs、4名搭乗を伝え、Rwy 34Lへの緊急着陸許可を得た。KC135のエルロンには油圧装置がなく、操縦士が交代しながら水平飛行を維持した。着陸装置のABSを切って、手動で降着させた。Foot-brakeをフルに作動させて、同機は何とか滑走路から逸脱することなく停止した。地上で機体を確認すると、左翼の#1と#2エンジンは脱落していた。
米空軍は事故調査官として現地へ派遣し、脱落した2つのエンジンを砂漠で探し出すと共に、乗員から当時の状況を聞き取った。同機は1/4~1/2NMの間隔で隊列を組んで飛行しており、機体が傾く直前に強度の乱気流に遭遇していたことが分かった。KC135のエンジンは3本のボルトで固定されていて、重量28.5万LBs、IAS310kt、風向風速270°/85ktの条件で設定すると、左翼には2.88G、右翼には2.61Gのwingtip vortexが作用し、この僅かの左右差で左翼だけエンジンが脱落した可能性が考えられた。右側のエンジンを支えるボルトは半分破断していた。左翼のエンジンは右へ横倒しになった際に、機首が上がって煽られるような姿勢で、翼上面から脱落したと結論された。

横倒しになった時にスピードブレーキを引くのは勇気がいることで、訓練の賜物でしょう。
夕方から日没の時刻に翼を確認するのは難しいものですが、本当にエンジンが出火したのか、火災でないなら何が起こったのか、機長が乗員に確認させたのは、冷静な判断だったと思います。
燃料投棄はいつ、どの位の量を投棄したら安全かを熟考して実施しないといけません。特に燃料タンカーは給油用と自機消費用の燃料が同じ燃料タンクに収納されているので、投棄量については細心の注意が必要なのです。
機長の冷静な判断と、的確な指示で、乗員全員で力を合わせて生還出来ました。外れたエンジンが翼上面を掠めて吹っ飛んで行ったにも拘らず、翼面に重大な損傷をもたらさなかったのは、不幸中の幸いだったと言わざるを得ません。

同様な驚きのエンジン脱落事故が、民間機にも発生した事があるので、次週はそれを検証してみたいと思います。





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