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航空機事故から学ぶ:ウォッカで墜ちた

2008年9月14日、Aeroflot Nord 821便(B737型機)は、ロシア連邦MoscowのSheremetyevo空港から東に2時間の飛行距離にあるPerm空港に向かって、午前1時に乗員6名と乗客82名を乗せて離陸した。機長は39歳で飛行歴は3,900時間、43歳の副操縦士は機長より倍以上の9,000時間超の飛行経験を持っていた。

同機は以前から左右のエンジン出力に差があって、throttle位置をずらしてセットしながら飛行を続けていた。4:50am頃、Permのapproach-ATCよりRWY21への進入を予告されていたが、Lufthansa機の出発があり、徐々に高度を下げながら旋回を指示されたが、機体を下げようとしても上昇してしまい、ATCよりapproachをやり直すよう指示された。高度2,000ftで右へ360°旋回するよう指示を受けた後、5:04amに機体が裏返しとなって、シベリア鉄道脇の線路沿いに真っ逆さまにに墜落した。88名全員が死亡した。

Russia連邦航空機事故調査委員会IAC(Inter State Committee)はB737型機の調査事例が少なかったこともあり、米国NTSBのベテラン調査官を招いて調査に当たった。
まず当時の気象状況を検証し、焼け爛れた機体・主翼の残骸やエンジンの状況をみて、空中分解はなく地上に衝突して火災が起こったことを確認した。回収されたFDRとCVRは、仏航空機事故調査委員会(BEA)へ解析が依頼された。

ATCへの尋問では、同機のapproachは滅茶苦茶であり、旋回指示に従わなかったと証言された。事故機のrudderがhard-overで固着、もしくは氷着していなかったか検分されたが、そのような状況になかった。
整備記録からも6か月前から左右のエンジン推力に20%の差があり、thrust splitで左右差を調整する必要があったことが分かった。

乗員の訓練記録では、機長は米国DenverでB737型機の訓練を受けたが、彼の英語力に問題があり、訓練内容にも制約があった。この機長は帰国後TU134型機へ乗務することとなり、B737型機の乗務経験も少なかった。副操縦士は単発複葉機のAN2型機に長らく乗務し、B737のsimulator訓練では双発機のasymmetric thrustの操作で不適合と判定されることがあった。

FDRの解析では、エンジン出力は右が61%、左が40%となっており、事故直前に自動操縦装置はOFFにされた。すると機体は左へbankして機が上昇していた。CVRの音声では、操縦に自信がない副操縦士が"Take it! Take it!"と叫んで操縦交代を機長に求めたが、機長は"What can I do with it?!"と叫んで応じていなかった。

CVRでの機長の挨拶では、Good evening...Good morning...Hours....Minutesと言葉のミスが多く、英国人の乗客が母国の友人に機長が酒酔いしているとtext messageを送っていた。IACは機長の肉片からethanolを検出し、飲酒状態であったことが証明された

IACはRussiaの航空業界をoverhaulする必要があるとして、全面的な立て直しが必要であることを指摘した。
後年、同社はAeroflotから分社化され、Nordavia航空として存続した。

旧ソ連邦が崩壊して20年近くが経過し、Russiaの航空会社もBoeingやAirbusの機材を導入するようになった時期でした。ところが、それを運航している乗員は、TupolevやAntonovの機材で航空経歴を積んできたエアマンだったのです。

今回の事故で指摘されたのは、姿勢儀の構造が西側と東側で異なり、前者はhorizonが動くが後者はAirpalaneが動くため、機体がどっちに傾いているのか、一瞬分からなくなってしまうことでした。私たちは西側の計器に慣れ親しんでいますが、人間工学的には飛行機のミニチュアが傾く方が理に適っていると思います。ウォッカをあおって乗務し、突然非常事態に陥ると、人はかつて沁み込んだ習性に戻ってしまうものなのでしょう。

副操縦士が"Take it! Take it!"と叫んで操縦交代を機長に求めたが、機長は"What can I do with it?!"-何しろって云うんだ?!-と叫んで応じていなかった状況は、エアマンの危険な投げやりの態度(resignation)の典型であり、それが機長の本性だったのか、酩酊状態から出た言葉だったのかは、もう故人にしか分かりません。


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