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航空機事故から学ぶ:落雷パニック

2014年12月15日、英国ScotlandのAberdeen空港からShetland諸島のSumburgh空港へ向かっていたLoganair6780便(SAAB2000型機)は乗員3名と乗客30名を乗せて、65分のフライトの終わりに差し掛かっていた。18:45にFL110へ降下してILS Rwy27へアプローチしたが、地上の天候は290°/34kt、Gust47ktと雷雨であり、視界は3,300mであった。

16NM手前で機上のradar画面に赤色のcellが前方に現れたため、42歳の男性機長は残燃料2,500kgを確認して、2,000ftで待機することとした。突然、眼前に落雷があり、目が見えなくなった。その際、客室内にはball lightningが発生した。35歳の女性副操縦士はcircuit breakerが落ちていないことを確認したが、機長は操縦桿が重くて自由に動かないことに気づいた。副操縦士はAberdeen管制センターへ操縦困難と伝えて、Maydayを宣言した。

機長は4,000ftまで上昇してAberdeenへ引き返すことを決心したが、機体は急に降下姿勢になって、350マイルの高速で急降下を始めた。管制官は高度を読み上げて降下を知らせ、副操縦士がspeedとコールしたので、機長がthrottleを上げたところ、高度1,100ftから機体は上昇に転じた。同機はFL240を維持してAberdeen空港ILS Rwy16へ無事着陸した。

AAIB(英国航空機事故調査委員会)の調査官は、同機からFDRとCVRを取り外し、RadomeとAPUのexit pointに落雷が抜けた痕を確認した。操縦士二人へ同時に面談すると、落雷によって自動操縦装置が解除され、Yokeが重くなった。その直後機首から真っ逆さまに急降下したが、副操縦士がspeed!と叫んだので、機長がthrottleを入れて事なきを得たと証言した。

CVRを解析したところ、最後の30分間のみ録音されていて、落雷前後の状況は上書きされて残っていなかった。
FDRを分析すると、落雷後もautopilotは解除されておらず、機体は2,000ftを維持しようとして、80Lbの力でnose downへ作用していた。SAAB S2000型では同シリーズでも例外的にautopilotの上乗せ機能がなく、操縦桿へ力をかけても、自動解除されない設計となっていたのに、乗員は気付かなかった。

計器にはAP<が表示され、緑色がON、白色がOFFになるが、乗員は落雷後に動転して見誤った。autopilot alartがピーポーピーポーと鳴っていた筈だが、二人はtunneling効果による認知能力低下で耳に入らなかったようだった。急降下中に自動操縦が解除されたのは、flight dataの一部に不完全があった偶然のためで、あと7秒遅かったら北海へ墜落していたと推測された。

RadomeからAPUへ抜けた落雷で、一瞬動転した乗員が自動操縦装置の動作に気づかず、偶然data不備で解除されたため九死に一生を得たというヒヤリハット事例。ATC管制官が急降下する機体の高度を読み上げてくれたから、副操縦士らが状況を墜落直前まで冷静に対処できたのかもと感じられました。

自分はどんな飛行機に乗る際も、Emergencyの手順の最初と最後に"Check Autopilot: ON or OFF"を書き加えています。コンピュータが機体を制御しているか否かで、緊急事態下での混乱度が増幅するからです。コンピュータを味方に付けるか、知らぬ間に敵に回しているかは、シップの運命を左右することすらあります。

突然陥った事態に対して、自動操縦を入れるか切るかの判断も、墜落に関わるほどの大きな転機になり得ます。自分自身のルールでは、ギアやフラップの不調、機内火災、乗員の急病、無線やナビの故障など機体制御に無関係の事態ではONのままとします。他方、失速やスピンではOFF、rollingの異常や高度維持困難では安易にOFFとしません。こういう事態には滅多に遭遇しませんから、日頃からautopilotの対処方針を考えておく事が大切です。

同機の客室で発生したball lightningは球電(もしくは球雷)と呼ばれ、大気に帯電した発光球体が浮遊する磁気現象で、黄色や赤色の1-3ftの球体に見えるとそうです。発生原因は不明で、実験室で再現するのも難しいことは別の記事で述べました。でも落雷を受けた機内で、命がけで見るものでもないのは、言うまでもありませんね。

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