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100個の家訓がある家族の物語。
異常な家訓と懲罰によって家族を自由の危険から守っている三上家に、児相で育った「普通の家族」を知らない主人公が結婚を機にやってくるところから始まる。
主人公は「幸せとは不幸ではないこと」「社会に適合すること」というかつての恩師(=偶然にもお義母さん)からの言葉を自分の信念として生きていて、この奇妙な家族にも適合し、家族でいることに執着してる。
でも、ある日懲罰を受けて一年半も物置に鎖で繋がれている義弟を見つけてから、家族の秘密や異様さが浮き彫りになっていくという展開。

最初は、この家族のコミカルな奇妙さに笑いが起こっていたけど、私は全然笑えなくてある種の気持ち悪さみたいなのを感じてた。「どうしてこうなっちゃったんだろう」とか「とんでもないコンプレックスがあるのかな」とか…

結局、元中学教師だったお母さんが「自由にやりたいことをやりなさい」という教育方針の結果、ある生徒が殺人を犯してしまったことがきっかけだったんだけど…
「自由は境界線が曖昧だからルールの下で生きた方が安全だ」って、考えが極端になってしまったのが家訓ができる経緯だった。

そんな家族の中で、朔太郎(義弟)は家訓を破り続けて「不幸ではない幸せ」よりも「危なくていいからめっっっちゃ幸せでいたい」と反抗する。社会に適合してきた主人公にはそれが理解できず、どんどんギクシャクして家族が揺れ動いていく様子にすごく引き込まれた。

私が舞台を好きな理由の一つは、舞台と現実が地続きになっていること。舞台上で演じられる世界は全くの異世界ではなくて、現実を生きていくためのヒントがたくさん散らばってる。それを集めるのが好き。自分の代わりに感情を吐き出してくれる人物を見ていると楽になることもよくある。カタルシスっていうのかもしれない。今回は、それがかなり多かった気がしてる。
家族といて、悩みが尽きなくて、そのタイミングでこの家族の物語を見ることができて本当に良かったと思う。
特に、ルールで縛り続けた結果が同じ失敗を生んだ、お母さんが間違いだったって否定したい、って朔太郎の態度や言葉はかなり刺さった。でも鎖を外されてもすぐに逃げるんじゃなくて「ただ話がしたかった」って向き合おうとしたり「家訓ができる前のお母さんみたいな教師になりたい」って夢を語ったところで、私と違って強い人だなってすごく輝いて見えて、そこが一番泣きそうだった…

一番最後のシーンは朔太郎が教壇に立っているシーン。「最近よく家庭の問題について相談を受けます。でも先生は答えを持っていません。だから参考までに僕の家族の話をしたいと思います。僕の家には家訓が100個あって…」といきいきと話すシーンで終わる。

今考えたら、朔太郎が生徒に話しているようにも見えるし、観客の私たちに話しているようにも見える。実際に三上家という家族を見て、観客が自分の家族を考えたり、問題に向き合ったりする。
まさに舞台と客席(現実)が地続きになってることを実感できる終わり方だったな。しかもどん底だった朔太郎が楽しそうに話している姿には希望も見えるし。

考えれば考えるほど好きだな〜この戯曲。もっと沢山感じたことがあるけど文字数も語彙力も足りなくて書ききれない…悔しい。

家族って、自分の当たり前が形成される場所だと思う。
親の言うことは疑うことなく正しいと思うし、食事の仕方や一日の流れや使う言葉…いろんな当たり前とか決まりがある。だから、他人と触れて初めて当たり前じゃないことに気づくことはよくある。
私も、家族の考え方を自分の考え方として持っていて、それが社会で通用しないって知った時は衝撃だったし、自分の中で信じてたものが崩れる感じがあった。でもそれは悪いことじゃないとも思ってる。

終演後に買ったパンフレットには、家族に関する歴史や考え方が書かれていて興味深かった。
「家族は流動的でいい」って言葉に、家族内の当たり前は変わってもいいってことかなって思ったり。
それと「家族は他者だけど他人じゃない」っていうのもハッとさせられる言葉だった。
三上家は、幸せのためにあーでもないこーでもないって必死でぶつかって話し合っていて、それは他者だけど他人じゃないからだなって腑に落ちたし、私も見習わないといけないと思った。
私は家族のことになると自分の気持ちとか考えを話すことがめちゃくちゃ苦手。だから、私より彼らの方がよっぽど家族らしいことしてるって思った…
家族は変わってもいいから、それを恐れずに違和感があるたびに話さないといけない。そんなことを考えさせられる作品だった。

やっぱり現実世界で誰かに説教されたりするより、舞台からの価値観や考え方に触れると素直に自分の弱さを見つめることができる。
生きていく上で、演劇は私の心の栄養ですごく大切だなって改めて思った。
素敵な作品に出会えてよかったな。

そして、そんな作品を見るきっかけになった堀夏喜くん。感想を書き出してみても朔太郎のことばっかりだった(笑)すごく重要な役を一生懸命演じていて、しかも初舞台という大事な場面に立ち会えて良かった!席も5列目の下手でカテコではゼロズレいただき嬉しかったな〜
千秋楽までおつかれさまでした!

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