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読書備忘録

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小さな書評集と称して、推薦図書を紹介しております。当記事が素敵な本と出会うきっかけになりましたら幸いです。
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【読書備忘録】わたしの物語から無音の海まで

 色々小説を読んでいると、体力を奪う夢魔のような作品に出会うことがあります。読書中は精神を掻き乱されて、中断していても心は休まりません。そして、読書を再開するさいには自分を奮い起こしてきたるべき動揺に備えます。当然読了後にはドッと疲労が出ることになります。  こう話すと否定的な印象を抱かれる人もいるでしょう。読んでいて疲れるのはプロットが破綻していたり悪文だったりするせいではないのか、と。実際は逆であることが多いです。ここで語る動揺とは筋・人物・表現といった物語の構成要素が濃

【読書備忘録】魔法の夜から神秘列車まで

 ここ数日諸事情で自室のエアコンを使えず、師走の冷気に泣かされていた百句鳥です。末端が冷える方なので、読書する手の感覚が失せて何度も本を落としそうになりました。蝉時雨の季節には指先の汗を拭き拭き頁をめくっていましたが、この短期間で世界は常冬であるという説を唱えたくなるのですから単純なものです。幸いエアコン使用可能になり、明日からは凍えずに済むと思います。  すっかり空気も乾燥してきました。ウイルスの流行する時期ですし、皆さまも体調には気を付けておすごしください。私も去年みたい

【読書備忘録】蒼老たる浮雲からキルプの軍団まで

 いつの間にか【読書備忘録】を始めて2年半近く経過していました。2017年6月12日が最初ですね。当初はTwitterの感想文を微修正した程度の簡素な内容でした。文章量を増やしたりレイアウトを変更したり、今も試行錯誤を続けています。とはいえ本の魅力を損ねる書き方をしていないかと公開するたび不安に駆られます。もしもこの書評集が少しでもお役に立てていたら幸いです。今回は岩波書店、河出書房新社、白水社の書籍が目立ちます。どれも素晴らしい本なのでおすすめですよ。 * * * * *

【読書備忘録】崩れゆく絆からロリア侯爵夫人の失踪まで

 人にさまざまな性質があるように、本にもさまざまな性質があります。読書していると、おなじ「面白い」という感想でも、そこに至る経緯は多種多様であることが認められます。初読で面白さを感受できる本もありますし、再読して面白さを発見できる本もあります。その現象はあくまでも本と人の個性を表すものであり、優劣を表すものではないと私は信じています。頬張るなり口内に風味が広がるよさもあれば、スルメのように噛めば噛むほど味の滲み出るよさもあります。同様のことが本にもいえますね。さて。何故こんな

【読書備忘録】万象から無分別まで

 本年は寒暖差の激しさが目立ちますが、梅雨入り後は如何にも梅雨らしい天候が続いているので、神奈川県に関してはまずまず安定した気象状況といえるでしょう。もっとも半日噛み続けたガムのような粘着質のじっとりした陽気はお世辞にも快適とはいえず、脳味噌がスポンジ状になり、全身の筋肉が浮きあがって骨を支えられなくなる感覚に悩まされる日々です。あらゆる関節に潤滑剤を噴射したいです。お馴染みCRCのあれ。でも何より恐ろしいのは湿気で本が歪むことです。この悲劇だけは回避しなければなりません。

【読書備忘録】夢の本から郝景芳短篇集まで

 この記事の投稿日は五月五日。四月三〇日をもって平成は幕をおろし、時代は令和に変わりました。新元号も何卒よろしくお願い申しあげます。もっとも元号に関してはこの数日で語り尽くされた感が否めませんが、一言も触れないのも無愛想かと思いまして【読書備忘録】の序文にてご挨拶させていただいた次第です。ちなみに平成最後に読了した書籍は当記事で紹介している『郝景芳短篇集』です。令和もよき本に出会えますように。 * * * * * 夢の本 *河出文庫(2019) *ホルヘ・ルイス・ボルヘス

【読書備忘録】クロニカからトラウマ文学館まで

 果たして【読書備忘録】に序文は必要なのだろうかと疑問を抱いておりますが、列挙するだけでは味気ない気もするので悩みますね。今回は数年前に刊行された書籍、または復刊された書籍が目立っております。また当マガジンにおける紹介順はあくまでも読了順であり、順位を表すものではありませんので何卒ご了承ください。 * * * * * クロニカ 太陽と死者の記録 *惑星と口笛ブックス(2018) *粕谷知世(著)  電子書籍レーベル、惑星と口笛ブックスの日本ファンタジーノベル大賞受賞作品復

【読書備忘録】自転車泥棒から仮想の騎士まで

 日本翻訳大賞の推薦が完了したから次はTwitter文学賞の投票だと息巻きながら本文を書いています。一月二月は読者参加型の賞が連続するため、一年間の出版を振り返る時期になります。この一年間もたくさんの良書に出会えました。けれどもそれ以上に未読の書籍が多く、まだまだ読みたりないというのが正直な気持ちです。未知なる頁を求め、一頁の面白さを噛み締め、最近のおすすめ本を紹介させていただきます。 * * * * * 自転車泥棒 *文藝春秋(2018) *呉明益(著) *天野健太郎(

【読書備忘録】ヴィクトリア朝怪異譚からガルヴェイアスの犬まで

 一二月頭の夏日は何だったのでしょう。数日後には一転して寒風が吹き、師走らしい寒気に見舞われています。もう奇怪な気象に馴染み始めているのであまり驚きませんが、お世辞にも健康的とはいいがたい現象だけに勘弁していただきたいものです。さて。今回の【読書備忘録】は二〇一八年刊行物が多いですね。復刊も含まれています。これから名著になる素敵な書籍が並んでいるので、少しでも読書のお手伝いができれば幸いです。 * * * * * ヴィクトリア朝怪異譚 *作品社(2018) *ウィルキー・

【読書備忘録】狂人の船からネット狂詩曲まで

 この序文を書き始める前コミックマーケット95の当落発表がありまして、Twitter/Mastodonは大変な盛りあがりを見せていました。そのため公開を若干遅らせた次第です。それにしても11月ですよ。そろそろ冬の足音が聞こえてくる季節なので、風邪など召さないよう体調にはお気を付けてください。ときには読書でもして静かな時間をすごしましょう。というわけで今回もおすすめの本を10冊紹介します。 * * * * * 狂人の船 *松籟社(2018) *クリスティーナ・ペリ=

【読書備忘録】奪われた家/天国の扉から流され雛の朝まで

 日本といえば自然災害と認識されそうですし、実際その見方は正鵠を射ていると痛感するこの頃。近畿地方を中心とする台風被害、北海道で発生した大地震。それらの続報を見聞しながらこの文章を書いています。複雑な気持ちですけれどもバタバタしたところで事態は好転しませんし、せめて暗闇に灯る一点の光になれることを願い、平常運転で日々をすごす所存です。東日本大震災では筆者の地元も少なからず影響を受けました。余震や飲食問題が心配される中、精神状態を保つのに本は大きな力になりました。それを思い起こ

【読書備忘録】日本人の恋びとから文豪たちの友情まで

 記録的という生易しいものではなく、新記録を樹立した二〇一八の酷暑。肉体を動かすのも億劫で必然的に読書量が増えております。もう本でも読まないとやっていられません。今回は若干文庫本多めでお送りします。また、全三巻を分割するという初の試みもしており、そちらも注目していただけると嬉しいです。素敵な本がたくさんありますよ。 * * * * * 日本人の恋びと *河出書房新社(2018) *イサベル・アジェンデ(著) *木村裕美(訳)  名作『精霊たちの家』で世界的に名を馳せたの

【読書備忘録】蕃東国年代記からボルヘス怪奇譚集まで

 この文章を書いているのは五月三十日。間もなく梅雨入りです。暑気にはそれなりに対応できる方ではありますが、湿気には弱くて梅雨は乗り越えるぞという覚悟を決めなければいけません。あと湿度が高くなると文庫本や新書がペコンと歪むことがあるので、保護に全身全霊をささげるつもりです。それでは今回もお気に入りの本を紹介します。 *  *  *  *  * 蕃東国年代記 *創元推理文庫(2018) *西崎憲(著)  唐と倭国の中間にある小国蕃東。ときは臨光帝がおさめる時代、宮廷に仕える貴

【読書備忘録】ドニャ・バルバラから落下症候群まで

 先日スマートフォンを購入して日常をアップデートしました。それに関しては以前雑記で書きましたね。とはいえ電子書籍はデスクトップか電子書籍端末を利用しているので、今のところ読書環境自体は従来通りです。それでもこの未来機器が新たな世界を見せてくれるのではないか、と期待しています。というわけで(?)今回もお気に入り本を紹介しますね。 *  *  *  *  * ドニャ・バルバラ *現代企画室(2017) *ロムロ・ガジェゴス(著) *寺尾隆吉(訳)  ロムロ・ガジェゴス賞で