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落下した告白 #宇宙SF

一台のロケットで複数の小型人工衛星を打ち上げられる様になったため、最近では宇宙空間との通信実験がカジュアルに行える。

僕がいた大学の貧乏研究室でも、手のひらに乗るサイズの通信衛星を開発している。今日はクライマックスの組み立ての日だ。事前に念入りに動作確認した電子回路とセンサーを黒い15cm四方の箱に組み付けていく。もうドライバーを何周回転させているだろう。

組付けをちょうどいいところまで行いたいため、今日は研究室に泊まり込みだ。

他のメンバーが疲れて寝静まったころ、僕は一番細いドライバーを握ってボックスの内壁に文字を彫り込んだ。

「Mさん、愛しています」

大学の隣の研究室にいる、博士課程のM先輩。すれ違ったときに挨拶するくらいでほとんど話しかけられないが、雑に束ねた髪の毛の隙間から見える首筋を密かに眺めるのが僕の人生の救いの存在だった。

秘めた気持ちを人工衛星の内側に秘めて、電子基板を組み付けて文字を隠した。

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人工衛星は無事に上がり、通信実験もうまく行って僕はなんとか修論を書けた。M先輩とは何も進展もなく、SEとして働いている。

入社して1年が立った頃、僕らが打ち上げた人工衛星が落下したと、同期から連絡を受けた。しかも日本の山の中に。某国のスパイ衛星と運悪くぶつかってしまったらしい。

めずらしい出来事にニュース番組が現場にかけつけ、人工衛星の破片をカメラに映した。僕は帰宅後にテレビでその映像を見て夜中のアパートで叫んでしまった。

なぜ燃え尽きてくれなかったんだ・・・・・燃えない最新素材を提案した自分のバカ。誰が書いたか、同期にはバレたに違いない。後輩にはバレたか? あいつはおしゃべりだから、在学中のM先輩にも喋ってるに違いない。

後悔に布団で悶絶しながら、もし何か進展できたらという淡い妄想で眠れない夜を過ごした。



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