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青梅街道、エモを求め、その先へ

前回はゆるポタ的都心観光を紹介したが本記事では上級都民向け観光方法として、こむらさき史上最恐のロングライドを紹介したいと思う。
ポタライドを紹介した前回の記事はこちらから

Chapter 1: Googled

それは2年前の夏休み終盤のことであった。
気づけいてみれば、夏期休暇期間になってからはというものの、バイト先と自宅の往復運動がほぼ毎日であったこむらさきはどこか遠くに行きたい願望と自身の空虚感から、夜な夜な画面に映る地図と睨めっこしていた。
ウヰスキーの臭いに反応し、フル稼働する空気清浄機のけたましい叫び音と労基法違反並みに働くエアコンの悲鳴が響くある日の夜、こむらさきは素敵な三文字をグーグルマップでふと見つけた。

<柳 沢 峠>
そこは東西にだった広い東京都すら超え、ひたすらに山しかない県:山梨に位置すると共に青梅街道の最高地点でもある。
標高1,472M。当時、多摩川サイクリングロードで満足していたこむらさきにとってその数字は神々しさすら感じさせた。それが永久(とわ)に続く、山登り(ヒルクライム)という名の苦行の始まりであったこととは知らず。
何も知らないこむらさきは、同じく何も知らない悪友を誘い、ニルヴァーナの地へ一同は目指すこととなった。

Chapter 2: Long March

朝五時、都内某所のコンビニ。
最近、生まれて初めて買ったレオタードのような恰好のサイクルジャージに身を包み、早朝の薄暗い中、意気揚々と悪友の到着を待った。
坂を登り、そして下る。一見して単純なことを今日は約200㎞という距離をかけて行う(勿論、道中では小さいアップダウンはある)。
それ加えて、ルートが日ごろよく通る青梅街道をひたすらに西へと進むだけという道程は非日常と日常が交差し、まるでArcade Fire*1を聴いている時のよなエモさを演出させる。

つぶさに煩悩にまみれたことを思い浮かべていたと思えば、大型トラックに追いやられるような心境を写した様の心細い光量でライトを照らしながら、常日頃、酷使してるクロスバイクに背中いっぱいにリュックサックを背負った状態で悪友は現れた。
(この人、登山するつもりなのかな?)
そんな不安を抱えながらも夏の灼熱を避けるため、国民党から逃げる毛沢東顔負けの長征を一同は開始したのであった。

青梅までの街並みはいかにも東京郊外といった様子だ。
店内面積の三四倍の敷地の駐車場を持つコンビニ、ふわふわダッシュボードな八王子ナンバー、休憩出来ない休憩所…どこをとっても都民(23区民)が描くような「田舎」が道中には広がっている。そんな安い感動を売りにしたレリックが売りの映画やドラマの撮影地みたいなところを横目にやり過ごせばあっという間に「レトロ」を売りにする青梅に到着した。
(どうしても「レトロ」を体感したいのであるのなら某埼玉や千葉の小江戸をこむらさきは勧める)

余談ではあるが都民(23区民)の多くが青梅街道と呼んでいる道(正式名称東京都道5号線)は青梅を持って終わる。
(因みに青梅街道は晴海までは通じていない)
その代わり、国道411号(通称青梅街道)として都県境、柳沢峠を越えた後、県庁所在地である甲府市まで続く。

Chapter 3: the Peak

青梅市街を超えればそこは山里であった。

多摩川によって削られた渓谷の風景を見ると川端康成でさえもここを東京府であるとは頭では理解しているつもりでも、身体ではそうでないだろうか。(知らんけど)
奥多摩まではJR青梅線と並行して進むこととなる。
いつもは都心方面に用がある際に乗るオレンジ色の帯が描かれた電車が緑が深い山近くを走る光景はやはりエモである。
しかし、そこは天下の東京都。どんなに山奥であってもそこが東京都である限り、道路の舗装には抜かりがない。そのかいもあって、いつの間にかここまでエモを共にした青梅線の終着駅である奥多摩に到着。

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あれ?こんなところに秘密結社のアジトが…
中には指を加えて、“ONE MILLION DOLLARS”とか言っていそうな禿おやじがいそうな雰囲気ではあるが正しくは奥多摩工業株式会社の奥多摩工場だ。
青梅からエモの連続であったのにここでも更なるエモのおかわりである。
ここまでになると奥多摩町ではなく、エモ多摩町に改名して欲しい事案だ。
脱線し過ぎて申し訳ないがこの工場では採掘場からトロッコによって運ばれてきた石灰石を加工することでセメントを生産している。トロッコが工場に石灰を運ぶ様子を内閣府公認(嘘)鉄道系ユーチューバーであるスーツ氏が紹介しているのでこちらも是非とも参照して欲しい。

そんなエモエモな、奥多摩。もとい、エモ多摩を見学した一同は更なるエモを求め引き続き長征を敢行する。

唐突ではあるがアルキメデスの法則をご存じであろうか。
勿論、読者様の多くにおいては当然存じ上げていることであろう候。
そんな、浮力の偉大さを体を持って理解することができるスポットがなんと奥多摩湖の上にある。
それが留浦浮橋だ。

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まるでモネの絵画を見ているかの様な奥深い緑が一面に広がっている光景はまさしくエモのラーメン二郎である。また、歩く毎にキイキイ音を立てて、上下運動する様はこむらさきの脳内でエモが無性生殖するかごとく、意外に激しい。加えて、天板は鉄で出来ているのでビンディングシューズなる処刑装置を履いている際のみならず、スニーカーでも充分に気を付けて欲しい。
さもないと、(湖面に)飛ぶぞ

橋を渡ると山梨県。
カントリーサインから中程度のアップダウンを挟めば丹波村の中心に付く。
ここから、ペダルという名の業を一心不乱になって廻す修業が始まる。
そう、青梅街道の別称である大菩薩ラインだけに。

中心部を抜けて暫くすると、苦行する修行僧を嘲笑うかの様な、コンコルドのジェットエンジン並みの音量でラジオを流す怪レいキノコ屋が現れる。
しかし我ら修行僧こと輪苦者(サイクリスト)、こんな俗世に塗れた所など気にもかけることなく、ただひたすらに業を廻す。

しかしながら、どんな業を廻しても一向に頂上もといニルヴァーナは見えて来ない。今の目の前にあるのはただ某芸能事務所がプッシュする割には中が微塵もないドラマの展開の如く、斜度が高くはないが確実に足に悲鳴を上げさせる逆のみである。遂には、毎日30㎞大学と自宅を往復する悪友も足つきしてしまう。そんな疲弊している最中、甲州市に入った途端、更なる苦行が一同を苦しめる。

アンモナイト、かつて白亜紀までに存在した頭足類であると同時に修行僧の間では急坂におけるカーブを指す言葉である。業を廻さないのであれば救済されないというブッタの教えを体現するような素敵なところである。坐禅の様に心と呼吸を整え挑む。そして、大人しく自転車を降り、押して登ることでクリアした。気づけば、何時しかお昼を回っている。果たして間に合うかという不安と同時に本当にたどり着けるのかと言う不安が一般人なら湧いてくるが、されど修行僧である輪苦者一同、心を無にしてひたすらに業を廻し続ける。

いよいよ終盤。ここまで無我夢中に業を廻し続けた輪苦者一同であるが或るモノが目に入る。

わらび餅

勿論、修行僧たる輪苦者、ここは当然の様に入店。煩悩なんてくそくらえ。
更に有り難いことにバイクラックまであるではないか。これは確信犯。
読者の皆様にこの清らかななる程に滑らかなわらび餅の姿を共有したい所であるが、そこは是非皆様自身で業を廻してご確認して頂きたい。

わらび餅で体力を回復させた輪苦者一行は山並みがよりくっきりと見える様からニルヴァーナへと着実に近づいていることを意識する。そして、道が天まで続いているかと思えば何時しかそこは…

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柳沢峠:海抜標高1,472M。遂にニルヴァーナに到達した。輪苦者は無事悟りを開くことが出来たのだ(大嘘)。この日は生憎、見ることが出来なかったが天気が良ければ遠くに富士山を拝むことも出来る。
(その後一行は迷うことなく、峠の茶屋へと足早に入る)

Chapter 4: Tokyo at Dusk

峠の茶屋で蕎麦を堪能した一行はペダルという業を廻し続けたこれまでの道を物理という非道なまでに残酷な加速装置の効力で、圧倒的スピードとんぼ返りをする。硝酸並みの速さで舌に溶けて行ったわらび餅、アンモナイトなカーブ、怪レいキノコ屋。通りすぎて行くもの全てがエモい、エモすぎる。エモに浸るあまりにタイヤも…うん?

前輪のタイヤがパンクしました。

どうしてなんだよ~
心の中の藤原竜也がそのように叫ぶ中、こむらさきは極めて冷静に自転車を逆さにした後、ツールボトルから予備のチューブとタイヤレバー、そしてCO2ボンベを取り出す。パンクなぞサイクリングにおいては恒例行事だ、恐るまでに足りない。かろうじて電波が通じる山奥にいることを除いて。
タイヤというモノは実に不思議なモノである。外すことは簡単に出来るのにいざはめようとなると凄く苦行のように感じる(実際、今でも大変な作業だ)。結果、30分以上も時間をロスする羽目になった。

エモい奥多摩を過ぎれば、青梅はあっという間である。
いつしか空も橙色になってきた。
だっだ広い駐車場のコンビニ、もふもふしたダッシュボードをこしらえてる八王子ナンバーの車、怪しいネオンが休む暇もなく輝く休憩所。
いつしか、こむらさきの脳内には「エモ」という二文字は消え、代わりに「課題」という二文字がおぼろげに浮かんできた。
業を廻し切った今だからこそブッタの教えが身に染みる。
現世に身を置くうちは生苦であるということを。

*1Arcade Fire: カナダのオルタナティブバンド。

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